「私の心にもラスタファリの種が」ボブ・マーリー ONE LOVE REXさんの映画レビュー(感想・評価)
私の心にもラスタファリの種が
冒頭の「すべての政府は法律違反をしている」という台詞に、世界の抱える問題の全てが集約されていると思った。彼の口から発せられる何気ない一言は、真理を的確についているし、深い。
ボブ・マーリーは10代のときに生き様としてのロックの一つとして聴いていて、そのときも年相応の感じ入り方をしていたけれど、自分が未熟すぎて歌詞の深い意味まで汲み取ることができていなかったように思う。
救済の歌(リデンプション・ソング)を聴いたとき、静かに静かに哀しみやら苦しみやらこみ上げるものがあって、改めてなんだこの名曲は、と胸が震えた。
劇中の心理描写から察するに、彼は救済や友愛を歌ってはいるが、その裏で、幼い頃自分を捨てた白人の父親を許せないでいたのだろうと思う。最後の場面は、彼がようやっと父親に対して折り合いをつけられたということなのかもしれない。救済の歌は自分自身に向けた歌でもあったのだと思う。
ジョン・レノンなど、平和に必要な人物は、なぜ早世する運命なのだろう。
がんの治療を拒んだボブ。劇中ではその理由をはっきり明言しない。自然に起きることをそのまま受け入れることも広くラスタファリズムの精神なのだろうけど、きっとそれだけじゃない。
お金のある者だけが最先端の治療を受けて延命できる世界への、アンチテーゼ
なのではないだろうか。
「ラスタファリ」「ザイオン」などの言葉をこちらが知っている前提で話は進む。
バックグラウンドを知らない人が観たら多少の疑問符を抱えたまま時間を過ごすことになるだろう。でもそんなことは彼の思想を知ることの妨げにはならない。観ていれば言わんとしていることや彼(ら)が訴えようとしているメッセージは伝わる。
今、改めてこの映画でボブ・マーリーを感じることができて本当によかった。今度こそ自分の中にもラスタファリの種をしっかり根づかせることができるだろうか。