劇場公開日 2024年5月17日

「ものすごい稀にみる傑作です 正に神が人間を使って撮らしめた映画だと、真面目にそう思います」ボブ・マーリー ONE LOVE あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ものすごい稀にみる傑作です 正に神が人間を使って撮らしめた映画だと、真面目にそう思います

2024年5月24日
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鑑賞方法:映画館

ボブ・マーリー:ONE LOVE
2024年公開

ボブ・マーリーが誰なのか
それは今日では世界の音楽好きならば誰もが知る人物です
ジャマイカのローカルな音楽だったレゲエを世界的なものにしたミュージシャン
クイーンのフレディ・マーキュリーぐらい世界的に有名です

本作の中盤に1960年の映画「栄光への脱出」の主題曲がひょんなことで大音量で流れます
それをきっかけに彼の名曲「エキソダス」が生まれるシーンがあります
その映画の原題は「エキソダス」だったのです
そのアルバム「エキソダス」は1977年に発表され、今もなお様々なロック名盤100選に必ず選ばれています

本作では歌詞もきちんと和訳されほとんどの曲の演奏シーンに合わせて字幕で紹介されます

当たり前?
そりゃそうです
でも日本人に取ってはそれが大変に重要なポイントだったと思います
日本では特別なマニアを除いて、単に夏場にピッタリな、ラムトニックやモヒートを飲みながらファッション的に聴かれる音楽に成り下がっているからです
英語の歌詞を読んでメッセージの内容を分かっている日本人は自分を含めてさほどいなかったのです

そうじゃない!
レゲエとは政治的なメッセージを濃厚に持つ音楽ということは本作を観たならば誰もが理解したはずです

そのメッセージは暴力的な政治対立や分断は不毛だ
武器を置き、過激な言説の応酬は止めよう
こんな果てしない殺し合いの泥沼から脱出しよう
それが「エキソダス」だと言うことです
出エジプト記とラスタの思想によるアフリカへの回帰なんて表面的な理解だということが良くわかります
ボブ・マーリーの生きていた時代のジャマイカだけのことではなく、21世紀の2024年の今この時全世界の人々が必要としているメッセージだったのです

感動しました
素晴らしい傑作だと思います

本作はボブ・マーリーの半生を描く伝記映画です
しかし本作はそれに止まらず、21世紀の世界を私達はどうするのか
どう収拾をつけるのか
それは私達の考え方一つだ
それをテーマにしている映画なのです

本作はカリブ海のジャマイカが舞台で時代は1974年頃から始まります
そして50年後の2024年、南太平洋のニューカレドニアの争乱が連日ニュースに流れています
天国に一番近い島と有名なところだったのに恐ろしいことになっています

カリブ海のジャマイカと南太平洋のニューカレドニア
全く違うようで実は同じことのように思えます

そして「エキソダス」
それが原題の映画「栄光への脱出」はパレスチナ問題の根源を描いている物語でした
こちらも連日ニュースで報道されています
ガザ地区の目を覆うばかりの惨状
ラファへのイスラエル軍の侵攻
その映画の続編が77年後の今現実に起きているのです
全く本作とは関係無いようでつながっていると感じるのです

そして1947年という年の符合
その年はジャマイカが英国領から独立に動きだした年ということを後で知りました
また映画「栄光への脱出」で描かれたのも1947年でした
ニューカレドニアも調べて見ると1947年は今日の紛争につながる因縁のある年だったようです
そしてゴジラ-1.0 も1947年でした

ウクライナとロシアの因縁はもっと古くからありますが、その年にもウクライナ人には忘れられない大きな事件があったそうです

単に今の世界の在り方があらかた固まったのがその年であっただけのことかも知れません

ジャマイカ、ニューカレドニア、パレスチナ、ゴジラ-1.0 、ウクライナ

それでも何かがつながっている
なにかが地上に噴き出でようとして地下深くでもがいている
世界が変わろうとしているのだ
そのように感じるのです

そこに気づかされた時、心から感動にうち震えました

ものすごい稀にみる傑作です
正に神が人間を使って撮らしめた映画だと、真面目にそう思うのです

蛇足
用語解説

ジャー
聖書における唯一絶対神ヤハウェを短縮した呼び方

ラスタファリ
黒人指導者でジャマイカ出身のマーカス・ガーヴェイという人が戦前に唱えた黒人への提言のこと
彼は後にニューヨークに出て「世界黒人地位改善協会」を設立しこう訴えかけました
すなわち
黒人としての誇りを持とう
黒人はアフリカへ帰還しよう
アフリカの王がやがて世界の植民地を解放する
黒人の救世主が現れてアフリカ大陸を統一して、奴隷として世界中に離散した黒人たちを約束の地であるアフリカへと導いてくれる
そう予言したのです
それで戦後独立を回復したエチオピアの皇帝の名前がラス・タファリだったので、彼をその黒人の救世主と見なしてガーヴェイの主張を信じる人々のことをラスタファリ、単にラスタと呼ぶようになったそうです
映画「ブラックパンサー」はこの考えをもとに作られていますね

でもそれよりもっと広義に黒人の自由、平等、人権を信じることという意味の方が近いかも知れません

あき240