「悪いことは言わないので、「ラスタファリズム」と「ハイレ・セラシエ1世」だけはググってくだされ」ボブ・マーリー ONE LOVE Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
悪いことは言わないので、「ラスタファリズム」と「ハイレ・セラシエ1世」だけはググってくだされ
2024.5.17 MOVIX京都
2024年のアメリカ映画(108分、PG12)
実在のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの半生を綴った伝記映画
監督はレイナルド・マーカス・グリーン
脚本はテレンス・ウィンター&フランク・E・フラワーズ&ザック・ベイリン&レイナルド・マーカス・グリーン
原題は『Bob Marley:One Love』
物語は、「スマイル・ジャマイカ」と呼ばれる内戦を抑止するためのコンサートに向かう、ボブ・マーリー(キングスリー・ベン=アディール、幼少期:Nolan Collignon、10代:Quan-Dajai Henrique)とザ・ウェイラーズが描かれて始まる
セットリストを完成させ、コンサートの準備が整った矢先、ある暴漢たちの侵入を許し、ボブと彼の妻リタ(ラシャーナ・リンチ、10代:Nia Ashi)、マネージャーのドン・テイラー(アンソニー・ウェルシュ)の3人が撃たれてしまった
幸い命に別状はなく、コンサートを敢行するものの、観客席に襲撃者の幻影を見たボブは、シャツをはだけて胸の傷を見せて、コンサートを無理やり終了させた
その後ボブは、リタと子どもたちをアメリカに移住させ、自身はロンドンに渡って音楽活動を続けることになった
プロデューサーのクリス・ブラック・ウェル(ジェームズ・ノートン)を筆頭に、著名なプロデューサーやミュージシャンとの交流を深め、映画『エクゾダス』にインスピレーションを受けたボブがアルバムを作ろうと言い始める
前半は、アルバム「エクゾダス」の製作過程を描き、楽曲制作に必要とのことで、リタを呼び寄せる様子などが描かれていく
後半は、ヨーロッパのツアーを終えて、アメリカではなくアフリカを周りたいと熱望するボブが描かれ、そしてエチオピアの女王から指輪をもらい、それが神の啓示であると感じ、ジャマイカに帰国することになる様子が描かれている
映画は、ボブの伝記映画で、音楽映画の要素は少し弱めに感じた
表題の「One Love」の製作過程が描かれるわけでもなく、彼の音楽制作に対する姿勢などはあまり感じられない
それよりも「ラスタファリ」や「ジャー」という言葉が飛び交いまくり、歌詞にも必ず登場するという感じになっていた
なので、ボブ・マーリーを知らなくても映画は楽しめるが、「ラスタファリ」が何なのかわからないとついていけない
感覚的に「宗教関係」ということはわかるのだが、それ以上を映画から読み取ることは不可能に近い
ラスタファリはラスタファリズムと言って、1930年代にジャマイカの労働者階級と農民を中心として発生した「宗教的思想活動」のことで、その主義主張を音楽をもって伝えようとしたのがボブ・マーリーだった
また、彼の夢にしばしば登場するのはハイレ・セラシエ1世で、彼はエチオピアの最後の皇帝として知られている人物である
ボブはエチオピア女王から指輪を託されていて、それは「あなたがジャマイカのハイレ・セラシエになりなさい」という意味になっている
ちなみに、彼には「ラス・タファリ・マコンネン」という全名があり、彼自身は「ラスタファリ運動の「神ヤハウェ(ジャー)」の化身とされている
それゆえに、ボブは彼の夢を見るのだが、ジャーからの啓示によって、今こそジャマイカに戻って、内戦に終止符を打てという役割を授かったと解釈しているのだと思う
いずれにせよ、このあたりの知識がないと本当に意味不明で、なんでエチオピア女王から指輪をもらったら帰るのかとか、夢に出てくるのは自分を捨てた父親のようにも思えてしまう
このあたりの説明がほぼなく、知っている前提で物語が進んでいるので、楽曲を通じてラスタファリの精神を広げていったボブ・マーリーの理念とは程遠いものがあったと思う
制作には存命の息子ジギーの名前が入っていて、子どもたちの中でも目立つ存在になっていたし、両親を美化させて描いている部分も多い
そう言った意味において、正しくボブ・マーリーの人生観が描かれているかどうかは疑問が残るのではないだろうか