「分かりやすくなった日本版リメイク。物足りないならぜひ台湾版オリジナルを」言えない秘密 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
分かりやすくなった日本版リメイク。物足りないならぜひ台湾版オリジナルを
男性アイドルグループのメンバーが主演する映画ということで、比較的若い観客層をメインターゲットにした企画であることは明らか。2007年のオリジナルの台湾映画に比べて、ストーリーの鍵となる“仕掛け”を分かりやすくし、より共感しやすい要素を追加して、感動的な青春恋愛映画に仕上げた。
このレビューは少なくともどちらか一本を鑑賞済みの方を対象に想定していて、以降で“仕掛け”についてある程度触れるので、まだどちらも未見ならこの先は読まず、できれば鑑賞後に再訪してくださるとありがたい。
まず類似ジャンルの映画としては、「ある日どこかで」(1980年米国)、「きみがぼくを見つけた日」(2009年米国)が挙がる。変化球ではあるものの、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(2016年日本)も含めていいだろう。「言えない秘密」との共通点は、異なる時代を生きる男女が時を超えて恋に落ちること。登場人物が意図的にタイムリープを行うという点では、「ある日どこかで」が最も近いだろうか。
さらっと書いてしまったが、タイムリープこそが本作の鍵となる仕掛けだ。そしてもう1つ、他の時間旅行ものにはないユニークな設定が、タイムリーパーが最初に見た人にだけ自分の姿が見える点。本編中盤まで伏線はちりばめられているが明示されず、終盤で秘密が明らかになり「実はあの場面では……」と回想シーンで答え合わせが続く。
冒頭で、リメイク版では仕掛けを分かりやすくした、と書いた。元の台湾版をこれから観る方々のためにぼかして紹介すると、オリジナル版では、ヒロイン(グイ・ルンメイが演じるシャオユー)が未来で体験してもたらされた感情が、時代を戻ってからの人生に影響し、それがさらに未来にフィードバックされていくという、やや複雑な構成になっている(これだけだと曖昧かもしれないが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で過去の改変により存在消滅の危機にある人物の現在の姿が消えかかるのと近い、と補足すれば多少は伝わるだろうか)。ちなみに主人公の男子学生を演じたジェイ・チョウは2000年から活躍する音楽アーティストで、ピアノを含め数多くの楽器を演奏し、作曲も手がける。2005年から俳優としても活動し、「言えない秘密」では監督デビューを果たし共同脚本まで担った才人だ。
日本版では、現在と過去の出来事のフィードバックをよりシンプルにして、SFジャンルにそれほど詳しくない観客でも理解しやすいように改変されている。そのぶん、たとえばトイピアノにまつわるエピソードなど、台湾版にはない感動要素を追加して、想定観客層を満足させる狙いだろう。
日本版リメイクの劇場公開にタイミングを合わせて、台湾版「言えない秘密」のDVD/BD(日本語字幕付き)がこの6月に再発売されたようだ(BDは初かも?)。アマゾンのprime videoでもレンタル・購入ができる。より複雑なストーリーが気になる方は、ぜひ台湾版もご覧いただきたい。
なお、韓国版リメイク(英題はSecret: Untold Melody)も2022年に撮影終了し、今年6月13日にリリースが決まったとの発表があったが、続報が見当たらないので何らかの事情で公開が延期されたのかもしれない。