「正当に評価されなかった人たちの、回復のはなし」ロスト・キング 500年越しの運命 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
正当に評価されなかった人たちの、回復のはなし
リチャード3世の遺骨発見という偉業を成し遂げたのは、実はひとりの在野のリチャード3世研究家の中年女性だった、華々しく自らの功績として発表したレスター大学ではなく。
(レスター大学は、発掘や分析という専門性のあるところを担ってはいるが、プロジェクトの発起人であり、発掘すべき場所を特定し、発掘のために奔走し、資金集めまでしたのは彼女で、許認可等のために便宜上の主体者はレスター大学だったかもだが、レスター大学は彼女をスルー、事実上功績を横取りしたんですよ!)ということを、世に知らしめる。これがこの映画のキモだったのではないかと思った。
ラストにフィリパが言ったように「正当に評価されなかった人たち」が回復される物語だったと思う。
エンドロールで、フィリパの功績が王室に認められたようなのを確認して溜飲が下がった。(下がったのはおそらくレスター大学の評判も。)
大きな力をバックに他人の実績を横取りする行為はよくあって、取られたほうが泣き寝入りになるのがほとんど。そういうものを許したくない、一矢報いたいという反骨精神みたいなものを、この映画から感じました。
しかもこれ、英国国営放送、BBCの制作、という。
サリー・ホーキンスは儚げでエキセントリックで、浮世離れしているような感じがあり、半魚人とかリチャード3世のイマジナリー・フレンドとかと親しくても違和感がない。
内向的で他人に対して控えめ、弱気なようだが、他人が絡まない自分の世界がその分強くて、それが偉業を成し遂げる原動力になったよう。
(イマジナリー・フレンドのリチャード3世は、彼女の重ねた思考を整理したり、意味づけたり、次の行動を示唆したりと、おそらく彼女自身の脳内活動が、リチャード3世の姿で出現したものと思う。)
フィリッパがリチャード3世にハマったのは、多くの共通点があって、リチャード3世の名誉回復に自らを重ね合わせたようなのがよく分かって説得力があった。
離婚したが結局戻ってきた元夫、そして二人の息子たちの温かさが心地よく、家族の物語でもありました。
イギリスは、種々、アマチュア研究家に伝統があり、層が厚いようで、時には専門家も及ばないような歴史的偉業を成し遂げることもあるというのが面白い。
階級社会がゆえに、専門の研究職につくなどありえないが知識欲を満たしたい人たちが多いのかも。会合などは、参加者はフラットな関係のようで、そこも良い。日本だったら上下関係や序列ができがちですよね。
そして、趣味や推しへの情熱は何よりも強し、と実感しました。