「とんでもストーリーも役者が本気だと胸を撃つ」春画先生 みなとのジジイさんの映画レビュー(感想・評価)
とんでもストーリーも役者が本気だと胸を撃つ
ツンデレ美熟女を演じさせたら日本一だと個人的に思ってる安達祐実と、稀代の憑依型カメレオン若手女優・北香那に、れっきとした紫綬褒章受章俳優の内野聖陽が、変態を描かせたら日本一(?)の塩田監督のメガホンの下でガチンコ演技を繰り広げる、それなら見ないわけにいかないと思いながら、もたもたしてたら主な映画館は軒並み上映終了になっちまった・・・ で、京都のしがない(失礼)ミニシアターにて観劇。
先に今話題のゴジラ・マイナスワンを別の映画館で見て、その時思いましたのは「どんな力業で攻めてくるストーリーも、見る側の胸を打つかどうかはそれを受けて立つ役者次第だなあ・・・」と、これは残念だったという感想ね。で、こちらの春画先生については「どんなとんでもストーリーでも、役者が体を張って演じるとグッと伝わってくるものがあるなあ」と・・・ それくらい、終盤のラスボス安達祐実と恋に狂った(文字通り狂ってます)北香那のガチンコバトルは、何を見せられてるんだと思いながらも目が離せません。
そしてね、嵐のようなバトルを経て、敗れた安達祐実が春画先生への愛を北香那に託すかのように静かに微笑みながら、あの和泉式部の歌を口ずさむのです・・・
もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る
やられました・・・ この歌を口ずさみながら静かに闇に沈んでいく安達祐実の姿から、彼女は誰よりも深く、けれど決してかなえられない悲しい愛を春画先生に向けていたんだな、とそのことが痛烈に胸に迫ってくるのです。(かのBlade Runnerで、初めてあのtears in rain monologueのシーン見たとき、気が付けば涙を流していた・・・それに似た感情の揺さぶり・・・と言ったら大げさすぎ?)
先に「とんでもストーリー」と書きましたが、いやいや塩田監督オリジナルのこの脚本、蛍という小道具を実にうまく使った周到なプロットで紡がれています。北香那(弓子)の春画先生への激情の発火材として、そして安達祐実(一葉さん)の深く悲しい愛の象徴として。
確かに見る人を選ぶ映画かもしれません。和泉式部のこの歌に親しんでいるかどうかで(私個人的に平安文学キャラでは朧月夜が、実在の作家では和泉式部好きなもんで・・)、この映画への見方が全く変わってくるような・・・。
少なくとも僕ははまりました。全編、変態プレーのオンパレードですが、見た後の感じはとてもすがすがしい。いやあ、もう一度見たいです。今度は、北香那のシーンごとにころころ変わる表情を楽しむつもりで・・・