「浮世絵の世界をもっと紹介してくれれば良かったのに・・・」春画先生 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
浮世絵の世界をもっと紹介してくれれば良かったのに・・・
意外にもエロの要素が強い映画でビックリしました。確かにR15+指定だったので、一定のエロ要素があるものとは思っていましたが、「商業映画としては日本映画史上初めて無修正の浮世絵春画がスクリーン上映される作品」という触れ込みだったので、てっきりこの点でR15+になったものと思っていました。しかし実際には無修正春画だけでなく、実物の人間のセックスシーンまであるとは!この意外性は、昨年観た「ビリーバーズ」と同様のものでしたね~
さて、そもそも本作を観に行った動機は、ひとつには浮世絵好きであること、もうひとつは内野聖陽が主演だったことにありました。そうした事前の期待と観終わった後の結果を比較すると、浮世絵の話が足りなかったかなあ、と感じられました。確かに序盤では、内野扮する春画先生こと芳賀一郎が、春画を中心とした浮世絵全般の解説をするシーンがいくつか出て来るものの、中盤以降は芳賀と春野弓子(北香那)の恋物語に焦点が移ってしまいました。もう少し浮世絵に関する超オタク的な蘊蓄を並べるとか、浮世絵の物語と映画のストーリーをシンクロさせるとか、そういった流れがあれば良かったのですが、実際はそうではなく、ちょっと期待外れでした。
また、内野の演技は期待通りだったものの、芳賀の人物設定が謎過ぎるのも気になりました。元々は大学で教鞭を取っていたらしいですが、学内で揉めて今は無職という設定。作家の一面もあるようだけど、最近は原稿も書いてないというので、一体どこから収入を得ているのか?勿論資産家風なので、それならそれでいいのですが、だったら旧華族の末裔だとか、御用絵師の家系だとか、もう少し芳賀のバックボーンとか経済的な側面とかを伝えて貰えると、リアリティが増したんじゃないかなと感じました。
また、周囲の人間を性的に解き放つらしい芳賀が発する不思議なオーラの源泉が何処にあるのかも、もう少し説明が必要だったんじゃないかなと思います。それが先祖由来のものなのか、芳賀一郎の生い立ちに関するものなのか、その辺りが描かれていれば、もう少し物語に没入出来たんじゃないかと感じられました。
エロシーンに関しては、折角春画をテーマにしている映画なんだから、前述の通り実際の春画に準えたものにして欲しかったと思います。後半はエロシーンがちょくちょく出て来るので、眼福にはなりましたが、ストーリーとしては春画の話と乖離してしまっており、特に”女王様”が登場するに至っては、何の脈絡も感じられませんでした。
やはり、いわゆる”お仕事系”の映画に特化して、浮世絵、ないし春画の世界をもっと紹介する内容だったら良かったのにと思わざるを得ません。