劇場公開日 2023年10月13日

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「現世で「同志」を見つけられたヒトは幸いだ…」春画先生 ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0現世で「同志」を見つけられたヒトは幸いだ…

2023年10月5日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず最初に断っておくと、本作は「コメディ」ではない。一風変わった「恋愛」作品ではあるけど。予告編から勝手に思い描いていたストーリーは、良い意味で見事に裏切られる(笑)。そんな裏をかかれる愉しみ?も秘めた作品だ。

老舗喫茶店でバイトしながら無為な日々をやり過ごしている弓子さん。彼女は、店内でテーブルに春画をこれ見よがしに広げる春画先生から、春画をもっと見たくないかと声をかけられ、興味を覚える。
ほどなく彼女は、谷崎潤一郎の短編にでも出てきそうな古風な先生宅を訪問。そこで春画の読み解き方をレクチャーされるうち、春画に、そして妙にストイックな先生に惹かれていく。
そんなある日、先生はいきなり弓子さんに、亡き妻のドレスを着用し(ヒッチコックの『めまい』のよう)、内々な春画の会合への同行を求める。これを機に二人のキョリはぐんと縮まるが、先生はヘンテコな性癖も顕わにしてきて…。

その後、キューブリック監督の『アイズ ワイド シャット』『シャイニング』やポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』のような、全く予想外の展開があって、、、などと書くと相当ヤバい作品じゃないのかと誤解されそうだが、そんなことはない。むしろ、隠し味として『彼岸花』『秋日和』などの小津テイストがはらりとまぶされ、「おおらかで明るい」一品に仕上がっている。そこが、映画前半で熱く語られる「春画の魅力」とも一脈相通ずる本作の、類いまれな持ち味になっているのだ。

江戸時代の自由闊達な春画にドハマりしながら「亡き妻に操を立てる」という現代の呪縛からは逃れられない春画先生。
対する弓子さんの方はおのずと生命力をほとばしらせ、その場のノリに身を投げ出すかと思えば、70年代邦画の絵沢萠子のごとく、ひたむきに走って走って走り抜ける。
このふたりが互いを「同志」と認め合い、「人を好きになることの痛み」に悶々としながら共に歩を進めていく姿を、私は羨望と嫉妬が入り混じった眼差しで、そぉっと覗き見たのだった。

追記:
“覗き見た”本作ではあったが、鮮やかな青のブーメランパンツ一丁でぷるぷるさせながら歩く柄本佑のことだけは、唯一ガン見してしまった。小津監督作『彼岸花』の朱色のやかんに匹敵するディープインパクトだ(笑)。

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