「多様性について考えさせられる問題作。」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
多様性について考えさせられる問題作。
これは素晴らしかった。
「これぞ映画」という感じの映画。
スコセッシは長年にわたって映画を撮り続けている中で常に「今の映像」を提供し続けている。時代の空気やセンスにぴったり寄り添って作品を生み出す能力は驚異的だ。
1920年代のオクラホマ州。
油田を掘り当てて金持ちになった先住民のオセージ族の土地に、金目当ての白人たちが押し寄せる。
戦争帰りのアーネスト(ディカプリオ)は、叔父であるヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってこの土地にやってくる。そこで運転手の仕事をするうちにオセージ族のモリー(リリー・グラッドストーン)と親しくなる。
ヘイルからオセージ族の女と結婚すれば金が流れ込んでくる、と吹き込まれて、モリーと結婚する。
そして、オセージ族が次々と殺されていく。
というもの。
映画における多様性は、現在ではほぼ必須条件になっている。
先住民と白人が共存する町を描くことで、多様性は表現できている。そして、そこで血みどろの争いが展開される。我々は体裁だけを整えて、心の底では多様性など実現できていないのではないか。そんな問いかけがなされているのではないか。
構造としては、英雄がある土地にやってきて、ミッションを達成することで報酬を手に入れる、というよくある英雄譚のパターンを使っている。しかし、英雄譚なら英雄が主人公なのだが、本作の登場人物は英雄ではない。構造だけ使っているのだ。
思い出したのは、同じく登場人物が欲望に流されて歯止めが効かなくなっていく「グッドフェローズ」(1990年)だ。
あの作品の作りはスコセッシの必勝パターンなのではないかと思う。もちろんストーリーは全然違うのだが、構造が同じだ。わかる人は気がつくと思う。
ただ、「グッドフェローズ」と違うのは主要人物の感情が丁寧に描かれているところだ。ディカプリオやデ・ニーロはもちろんだが、リリー・グラッドストーンが素晴らしかった。彼女は言葉を発しなくても、かすかなしぐさや顔つきで多くを表現していた。
製作費2億ドル(300億円)。全世界では6700万ドル(100億円)の興行収入を達成しているとのこと。ただし、ネットで調べると、アメリカでのヒットの目安は、総興行収入1億ドル以上。年間トップ10を狙える大ヒットは2億ドル以上ということなので、どこまで伸びるか、といったところ。
ちなみに自分が観た劇場では542席ということだが、100人も入っていなかったのではないか。1回の上映の観客数だけで判断するわけにはいかないが、日本では苦戦するような気がする。
個人的にはすばらしい映画だと思う。3時間30分という長尺も必要だったと思う。テンポはよくて無駄に長いわけではない。ただ、この長さとIMAXで2700円というチケット代の高さを考えると、それでも観ようと思うのは、本当に映画が好きな人だろうとは思う。