劇場公開日 2023年10月20日

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「アメリカ」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン たまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アメリカ

2023年11月17日
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沈黙サイレンス以来、久しぶりにスコセッシ映画を鑑賞。
3時間を優に超える上映時間。多少の冗長さを感じないわけではなかったが、しかし最後まで緊張感をとぎらせることなく、観させる傑作であった。

スコッセッシは、初期作ミーンストリートしかり、中期ギャングオブニューヨークしかり、アメリカの抱える原罪を描いている作品も多い。
ギャングオブニューヨークでは、アメリカが移民などのストリートの抗争などから生まれた、という独自の建国視座を感じた。

そして、今作。
この映画もアメリカ建国以来の原罪を、白日のもとにさらす、という物語。
今ではネイティブ・アメリカンと言われる人々、インディアンを石油をめぐる利権のために殺害し、彼らの土地を奪い取り、金を強奪する、いわば悪い白人達とだまされてしまうネイティブの物語。受益権という言葉がたびたび出てくるが先住民をだまし、金のためだけに使われる白人たちのエクスキューズだろう。
強欲資本主義、とはよくいったものでこれは現代においても、延々と続く地平の物語だ。
スコッセッシは淡々と白人たちの悪行を描いていく。
しかし多くの人々が死に、殺される映画だ。
史実というからには歴史のまさに暗部。

脚本にはエリックロスも関わり秀逸。
フォレストガンプ、インサイダー、砂の惑星など。

キャスト。ロバート.デニーロ、Lディカプリオ主演
デニーロの円熟した演技、ディカプリオが名優へと階段を確実に昇っていることを感じさせる。
巨悪は、最初からそれとわかるようにはやってこない。
ディカプリオ、叔父である彼の手足となり働き、最後には本当に愛するものまで全て失ってしまう男。
哀切感極まる存在。見事。
ワンスアポンアタイムインハリウッドでの、これまた哀切感たっぷりの俳優を演じていた。
いや、彼はもともと演技派であったか。ギルバートグレイプから…。
また先住民オセージ族の女性を演じる、リリーグラッドストーン。まなざしがよい。シナリオで彼女の心中を言語化しているが、印象深い。最期にはディカプリオ演じるアーネストのもとを去っていく。

アメリカは、自らの国の暗部まで映像化する。
感心させられる。
今作ではKKKまで映像化しており、アメリカの差別構造は根深いものがある、と改めて感じた。
ネイティブ・アメリカンを居留地におしこめ、いわば白人たちが彼らを追い出した格好である。
アメリカだけの話ではないだろう。

当初、ディカプリオはFBI捜査官の役をオファーされていたらしいが、善悪の狭間で右往左往するこの役だからこそ、
映画自体もいきているのではないだろうか。

Mスコセッシ、デニーロ、ディカプリオ、巨匠と名優がアメリカ暗部の歴史を描く。

FBIの誕生、と原作の副題にもあったが、エドガーフーバーの名前が出ているのには驚いた。
のちに絶大な権力を持ち、アメリカ歴代大統領を陰であやつるまでになる人物。
JFK暗殺にも少なからず関わりをにおわせる、そのような人物がこの作品の時代に生きていたのだ、と思い。

意義深い映画化作品であると思う。

たま
たまさんのコメント
2023年11月22日

ギルバートグレイプでの演技、絶賛されたあと、タイタニックあたりまでは、自分もイケメン兄さんって感じで見てました。スコセッシと組んだギャングオブニューヨークあたりから、彼の演技の幅が広がり始めたと思っています。タランティーノ作品ジャンゴ繋がれざる者の悪役ぶりには目を見張りました。レヴェナントでようやくアカデミー賞主演男優賞をとりましたね。

たま
Mさんのコメント
2023年11月22日

ディカプリオさんの情けない役が、見ていてイライラしました。ということは、彼がそれだけ、演じるのが上手かったということですよね。
先日「ギルバード・グレイプ」を見て以来、彼の演技の巧みさがわかるようになりました。(それまでは、ただのイケメンの俳優さんだとばかり思っていました)

M
たまさんのコメント
2023年11月18日

コメント、共感ありがとうございます
スコセッシ監督に限らず、アメリカなどの映像作家は、自らの国のいわば黒歴史を余すことなく見せますね。国は
記録、公文書もきちんと残して。
全てを公開している、というわけでないにしても。検証、総括しますよね
日本…なかった、見つからない、認めない、、最近特になんなんだろう、これは、と同感です。

リリーグラッドストーン、全てを見抜いている目、思い、が切なかったです。

たま
グレシャムの法則さんのコメント
2023年11月18日

アメリカって、どんな分野でも100年前の記録とかをちゃんと残してるから、イチローさんやら大谷さんの記録が比較考量されて偉業が分かりやすく報じられます。
だから、歴史的事実も白人にとって都合が悪くてもこの映画のように再現できる。イラク戦争みたいなほとんど言い掛かりで起こした戦争もキチンと検証したり、映画化されたりする。
我がニッポンの暗部はどんどん勝手に破棄廃棄されてるようで、なんだかなぁ、と思ったりします。

グレシャムの法則
humさんのコメント
2023年11月17日

共感ありがとうございました。
たくさんの知識、勉強になるレビューを読ませていただきました。
おっしゃるように、〝善悪の狭間で右往左往する〟夫をディカプリオは見事に演じていましたね。
また、それをみつめる妻の深い眼差しはすべてを見抜いていたようで、その精神に宿るたくましさをあらわした彼女の空気感にみとれました。

hum