「共感できないことは映画の評価と関係がないわけですが…」ほつれる TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
共感できないことは映画の評価と関係がないわけですが…
84分という短めの尺ですが、間接的な内容のセリフで二人の関係性や背景が見えてきたり、人物たちの動作やそのカメラワークだけで起こることが想像できて、所々上手な演出だなと感じる巧さがあります。特に秀逸なのが、序盤の山場である「木村(染谷)に起こるアレ」に対する綿子(門脇)の動揺は見ごたえがあり、掴みの良さに映画への期待が高まります。
兎に角、出演する役者が皆さんお上手。まずは、文則役の田村健太郎さんはとても印象深いです。彼の口から出てくる言葉や文法が独特で、女性に対してコントロールしようとする態度でどうかしているキャラクターが際立っています。また、木村の父・哲也役の古舘寛治さんが相変わらずとぼけた演技が素晴らしい。後の話につながりますが、結局はこの哲也こそがキーマン。やっぱり古舘さんの演技は信頼できる説得力があります。
ただ残念ながら、私にとってこの監督の書く脚本(前作『わたし達はおとな』を含む)にほぼ共感が出来ません。と言うか、恋愛弱者な私には全く見たことがない世界でむしろ違和感すら感じます。何なら逆に、役者が巧く演じれば演じるほど、むしろコントのようでちょっと可笑しくすら感じるくらい。或いは「狙い」でやってるのかもしれませんが、果たしてそれでバランス的に成立しているのかやや疑問です。登場人物たちのやり取りを見ていると、「一緒に生きていく(別れない)ことの意味や価値感」があまりにも希薄に見えるため、結局、登場人物たちに共感が持てません。
何より違和感なのは「息子の結婚式にも出なかった父親と息子の嫁の距離感」がよく解りません。息子と距離があった義父に対してプライバシー感強めな「アイテム」についての相談なんてするものなのか?まぁ藁をも掴む想いかもしれないけど。そして、それを意気に感じたのか「僕一人の胸にしまっておけない」と綿子に切り込む哲也。物語が推進するポイントだけに、その無理を感じる展開が反って気になってしまいます。
結局のところ、けして悪い出来ではないのですが、残念ながら多分そう長いこと記憶に残らない映画となりそうな気がします。せめて、もう少し深みが欲しいかな。。