劇場公開日 2023年10月27日

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SISU シス 不死身の男 : 映画評論・批評

2023年10月24日更新

2023年10月27日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

フィンランド映画界が放つ、戦争残虐ナチ皆殺し娯楽アクション大作

フィンランド映画史上最大級の予算600万ユーロ(約9億5千万円)をかけて製作され、国内では250日超の大ロングランを記録。全米では初登場10位、全世界で1410万ドル(約21億円)を稼ぎ出した注目の戦争アクションである。SISUとは「不死身」を意味するフィンランド独自の方言らしい。監督は地元出身で活劇描写に定評のあるヤルマリ・ヘランダー

1944年のフィンランド北部。長年の探索でついに金の鉱脈を探り当てた伝説のコマンドー、アアタミ(ヨルマ・トンミラ)。彼はこれを換金するためヘルシンキへと向かうが、その財宝の存在を知ったナチスから執拗な襲撃を受ける。アアタミは単身で巨大な敵に決死の戦いを挑む。

ハリソン・フォード81歳、スタローン77歳、リーアム・ニーソン71歳、トム・クルーズ61歳、キアヌ・リーブスブラッド・ピットは59歳。現代のアクション俳優は意外なほど高齢だ。もはや老人アクションというジャンルは無いのかも知れない。

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主演俳優ヨルマ・トンミラは64歳。演じるアアタミは300人以上の敵兵を殺害し、軍部でも止められない殺りくマシーンという設定だ。1939年のフィンランド冬戦争でソ連兵524人を葬り「白い死神」と恐れられ、瀕死の重傷を負いながらも生き抜き、96歳の天寿を全うした実在の狙撃兵シモ・ヘイヘを想起させる。

また、金の採掘といえば最近、コーエン兄弟の西部劇オムニバス「バスターのバラード」(Netflix)の「金の谷」があった。お宝の争奪戦ということで、この短編も血生臭かったが、本作はその比ではない。なにしろ最初の小競り合いからナチス兵たちの人体損壊が存分に楽しめる。戦車に立ち向かい、極寒の湖底で敵を待ち伏せし、最後は「ミッション:インポッシブル」顔負けの空中戦にも挑む。「ツルハシ1本」は盛り過ぎだが、身近な物を武器に戦い抜く姿に思わず拍手を送りたくなる。

監督は「ランボー」に影響を受けたとしているが、過剰なゴア表現や章立ての編集、アナモフィック・レンズによる2.39:1の画角などと相まって、タランティーノのテイストも強く感じる。ヘランダー監督の過去作と本作は、シニア・キャラ、アクションや派手な爆発シーン、フィンランドの大自然といった要素が共通しているものの、今回は実際のラップランド戦争を舞台に、ラストまでほぼセリフがない主人公や、勇敢な女性キャラクターが活躍する新趣向が刺激的だ。

人物の背景を深掘りしたり、戦争の不条理を描き出そうとせず、ビジュアルとテンポ重視で90分を駆け抜けたことが、ヒットの要因と思われる。北欧から世界レベルに格上げされた感のあるヘランダー監督、次はどんな物語を作り上げるのだろうか。

本田敬

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