劇場公開日 2024年2月16日

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「壮大なこけおどし」ボーはおそれている ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0壮大なこけおどし

2024年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

真っ先に思ったのは、本作が、A24が同社史上最高額の製作費を投じてアリ・アスター監督に自由に作らせた(実際のところ、どうだったのだろう?)結果、出来上がった「壮大なこけおどし」ではないか、ということ。

次に思い浮かんだのは、作風こそアスター監督とは全く異なるが、ウディ・アレンの初期監督・主演作だ。『アニー・ホール』『スリーパー』『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』など一連の作品において、ウディ・アレン演ずる主人公はいずれも、母親の影に怯え「信じられるのは死とセックスだけ」とつぶやくような「こじらせ男」だ。

一方、本作の主人公ボーも神経衰弱気味で、映画も精神科医とのカウンセリングのシーンから始まる(正確にはその直前に“プロローグ”があるが)。いかにも「ウディ・アレン」風の幕開けだ。また主人公が巨大なチ●●コに襲われるシーンは、映画『SEXのすべて…』の中でアレンが母乳をまき散らす巨大おっぱいに襲われるシーンを思い出させる。

ただ、アレン作品とは決定的に異なる点もある。それは、ボーが母親に刷り込まれたトラウマのせいで異性との性交渉を恐れていることだ。それだって、いかにも「精神分析的」ではあるけれど。

そんな心配性の彼が、ゾンビみたいな連中?で溢れかえったスラム街を後にして、母の元へ旅立つ。怪しげな外科医夫妻の邸宅に滞留したり、森の中の芝居を見ながらしばし妄想に耽った後、なんとか母の葬儀が営まれる実家の豪邸に到着。棺に収まった母の首なし遺体と対面し、さらに初恋の女性とも再会するが…。

この後しばらく辻褄合わせのような「あのヒト」の説明セリフ(?!)が続く。ここまでのいきさつで、フェリーニの『女の都』みたいな「幻想譚」、あるいはベルイマンの『野いちご』みたいな「相剋譚」であると、一応了解しているつもりだが…。

長いなぁというコチラの思いは置き去りにして、なおもボーの“地獄めぐり”は続く。開かずの屋根裏部屋を覗いて腰を抜かし、思わず「あのヒト」に手を上げてしまい、湖水に小舟を滑らせて、いよいよラストかと思ったら…。

羊水に始まり、羊水に還る? 胎児が見た悪夢??——いかようにも括れそうな本作だが、これで上映時間179分は長い、長すぎる。正直あと60分は切ってほしい。たとえば中盤の「森の芝居」のくだりや後半の「読み解きセリフ」のシーンなどほんとに必要?と思ってしまった。

ボーが、一歩出ると死体も転がる自室で、バスタブにお湯を張って呑気に入浴していると、ぽたりぽたりと…っていうイミフ過ぎる「恐怖シーン」とか、妙に心惹かれた描写も散見されるだけに惜しい…。

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