「ある意味集大成。だけど君たちどう〜に近いか」キリエのうた ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味集大成。だけど君たちどう〜に近いか
岩井俊二にとって震災に分断された青春はどうしてもやっておきたかったのだろう。まったくそういう題材だとは知らなかったのだけど描かれる時代と石巻などのワードでああ。それか、と。
ひとりのアイコンをもとに様々な人を配置して時代を描くのは岩井俊二のパターンといえばパターン、音楽満載で尺も長そうなのでこれが期待していた岩井俊二ではあるのだけど、これは今の若い人たちはどう見るのだろう。バブル期の日本で撮られた「スワロウテイル」とその崩壊後と震災後を繋いだ岩井俊二のクロニクル手法によるクロニクルな感じもする。
そして今度はアイナジエンドと広瀬すずにそれらのバトンが渡されたのだけど、ほとほと岩井俊二がロマンチストなのだというのがよくわかる。それは物語の終わらせ方に。
テーマは女の子同志の友情なのだけど、その同志を成り立たせる松村北斗がかなり複雑で文学的な十字架を背負っているが、これは元ネタでもあったのだろうか。そんなに好きではなかったちょっとヤバい女子高生キリエとその生き写しのような妹ルカと仲良しの親友の年代記。偶然繋がれた三角関係ではるが、時代の並べ替えと一人二役が、ストレートに切なさを感じられないようにつくられている。本来ふたりを強く結びつけるルカの原始の歌声は劇中でなく、冒頭と締めにイメージで出てくる。また、松村はルカの踊りを目にするが、歌声を知る印象的なシーンがあるわけでもない。それらがあればもっとドラマとして効きそうだど、あくまでイメージで終わり、広瀬すずも結婚詐欺で稼ぐ生き様のドラマは回避され、ファッションとして描かれる。なんだか初期の王家衛っぽくて面白くもあるのだけど。
なのでラストシーンの感慨が長尺を費やした割には心に響くわけではない。かなり複雑な仕掛けが多かったかな。