「【"木漏れ日。”東京の公園の公衆トイレ清掃を生業とする男のルーティンな日々の中、小波の様に起こる出来事を静謐なトーンで描いた作品。人生の真なる豊かさとは何であるかを考えさせられる作品でもある。】」PERFECT DAYS NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"木漏れ日。”東京の公園の公衆トイレ清掃を生業とする男のルーティンな日々の中、小波の様に起こる出来事を静謐なトーンで描いた作品。人生の真なる豊かさとは何であるかを考えさせられる作品でもある。】
ー 今作の主人公である男の苗字は、平山である。
この時点で、今作を製作した小津安二郎監督作品を敬愛する、ヴィム・ベンダース監督の想いが伝わって来る。
そして、今作品の魅力は、”現代の平山”を演じた役所広司さんの抑制しつつも、確かなる演技である事を再認識した作品である。-
■男(役所広司)は、仕事のある日は早朝に近所の住人が箒で道路を掃く音で目覚め、”The Tokyo Toilet”と背中にロゴが入った青いつなぎを着て、玄関脇に置いた車の鍵、小銭(何故か時計はしない。彼は仕事のある日は体内リズムで時を感じるからであろう、と鑑賞中に思う。)を手に取り玄関を出て、空を見上げてから自販機で決まった銘柄の珈琲缶を買い、一口飲んでから気分に合わせて60年代ロックのカセットテープを流しながらミニバンを仕事場に走らせるのである。
◆感想
・冒頭、上記の仕草をした男が車内で掛けたカセットテープから流れる”朝日のあたる家”を聞いた途端に”この映画は面白いぞ!。”と確信する。
・更に別の日には”The Velvet Undergroundの”PALE BLUE EYES"を流しながら、男は公衆トイレに向かうのである。
ー 無茶苦茶、センスの良い選曲である。-
・男は公衆トイレに着くと、手際よく且つ丁寧に仕事をこなして行く。
ー 使用者が来ると、さっと作業を止め、外で待つ。その間に彼は木漏れ日や公園のルンペンの初老の男(田中泯)のゆったりとした踊りを楽し気に見ているのである。-
・男の相棒の若い男(柄本時生)は、スマホで話しながら清掃をしているが、彼はその姿を見ても咎めない。
・男の昼食はほぼ決まっていて、ある神社の境内のベンチで食を摂る。サンドイッチと飲み物。そして、男は胸ポケットに入れてある小型カメラで境内の木の葉の間からの”木漏れ日”を写真に撮り、時には木の根の近くに生えて来た小さな枝を、新聞紙で作った小箱に神社の宮司とアイコンタクトで許可を貰ってから移し替え、家に戻り育てている。
・男は仕事を陽が高いうちに終え、銭湯が開いた途端に暖簾を潜り、一番湯に浸かるのである。年輩の常連客に軽く会釈をする男。そして、行きつけの酒場でレモンチューハイを飲み、家に帰りフォークナーの小説を読みながら、寝落ちしていくのである。
ー 実に、豊饒な時間を過ごす男であると思う。-
・休日には、男は、”Lou Reed"の”Perfect Day"を部屋で寛ぎながら聞き、水に濡らした千切った新聞紙を部屋に撒き、埃を吸わせ手際よく掃除をする。
そして、平日には着けない時計を手首に嵌め、外に出る。
つなぎを始め洗濯物をコインランドリーで洗い、古本屋で幸田文の「木」の文庫本を購入し、行きつけの小料理屋でレモンチューハイを呷る。女将(石川さゆり)は何だか、男に好意を持っているらしい気配である。
ー 男が、自由な生活を楽しんでいる事が良く分かるシーンの数々である。-
■男のルーティン生活の中で起こる小波
1.相方の若い男が気にしているアヤ(アオイヤマダ)にパティ・スミスのカセットを気に入られ、車内で流す。アヤはそのカセットテープをそっと、袋に落として去る。
その後、若い男からアヤの店に行くため金をせびられ、一緒に中古レコード屋に行く。若い男は、男の所持品である60年代ロックのカセットテープを店の男に見せると、高額金額を提示され驚くが、男はカセットテープは売らず(そりゃそーだ!)、若い男に金を貸してやるのである。
そして、車で家に帰る途中にガス欠になり、男はカセットテープを持ち、橋の上を走って行く。彼がそのカセットテープを、中古レコード屋で売ったシーンは描かれない。
ー 観る側に、解釈を委ねるシーンである。男がどのカセットを手にしたのかが、妙に気になる・・。-
2.ある日、男がアパートに戻ると階段に女子中学生位の女の子が座っている。男は”ニコか!大きくなったな。”と嬉しそうに言い、彼女を家の中に入れるのである。
ー 最初は、ニコが男の娘かと思っていたが、妹(麻生祐未)の娘である事が、後のシーンで分かる。
序でにニコという名は”The Velvet Underground” のファーストアルバム”The Velvet Underground and Nico"から取ったのだろうと勝手に推測する。-
ニコは男の妹であり彼女の母と何か揉めて家出したらしいが、男は何も聞かない。ニコは男の所有するパトリシア・ハイスミスの”11の物語”を読み耽り、男と一緒に銭湯に行ったり(男はコッソリ、彼女の母に公衆電話から電話している。)男の仕事にも付いてくる。
或る晩、彼女の母が運転手付きの高級車で彼女を迎えに来る。ニコは”11の物語”を未だ読み切って居ない。特に”掌編すっぽん”の主人公の少年は私だよ!”と多少抵抗するが、素直に車に乗る。
そして、男の妹は”お父さんがもう・・。逢いに行ってあげて。”と言うが男は答えずに、涙を流し妹を抱きしめるのである・・。
3.休みの日、行きつけの小料理屋の扉が開いていて、男が覗くと女将と見知らぬ男(三浦友和)が抱き合っている。
男は慌てて自転車を漕いで店を離れ、コンビニでハイボール三本と煙草を買い、夜の川沿いで独り呑んでいると、女将と抱き合っていた男が現れる。
そしてその男は自分は癌であり、女将の元夫だと言って男から煙草を貰い、咽びながらハイボールも一缶貰い(元夫は、最初は固辞するが。)二人で影踏みをして遊ぶのである。
ー 女将の元夫が男に頭を下げて言った言葉。
”アイツを宜しくお願いいたします。”男は、”いや、そんな関係ではないんです。”と答える。
役所広司と三浦友和という邦画の名優二人の演技が光るシーンである。-
<今作は、ラストシーンも素晴らしい。
男は早朝、朝日が差す中、ミニバンを仕事場に向けて運転している。
男の顔は、笑顔でありながら涙が目尻に湧き、徐々に上記の色々な小波を思い出したのか、泣き笑いの表情になって行くのである。
正に役所広司さんの畢生の演技である。
今作は、”人生の真なる豊かさとは何であるか。”を観る側に考えさせる作品でもあるのである。>
<2023年12月22日 劇場で鑑賞>
<2023年12月29日 別劇場で再鑑賞:レビューも少し追記する。>
■依って、勝手ではあるが、評点を4.5から5.0に変更させて頂きます。
<2023年12月31日
あるレビュアーさんから御指摘を受け、一部修正しました。有難い事です。>
NOBU さんのベスト5を変えたなんて、よっぽど刺さった作品でしたね。
確かに人の生き方、考え方を変えてくれるような、私にとっても影響力の大きい作品でした。風呂無しアパートに住んでいるのにちっとも貧しさを感じない神々しさが感じられましたね。
さすがNOBU さん、洋楽コメント期待以上です☺️。
平山のイケてるところはめっちゃありますが、とにかく曲のセンスがいいですよね。朝は「朝日の当たる家」とか「ドックオブザベイ」とか、ちゃんと聴く時間帯に相応しいチョイス、洋楽好きとしては外せませんwww
私も本作すごくはまりました。ただ皆さんのように音楽に精通してない(特に洋楽)ぶん、私にはその辺の良さまで理解できてるのか少々不安ではあります。ただ風になびく木々の葉がこすれる音とか何気ない日常の音とかはすごく心地よく感じられました。
NOBU様、他作品に共感を多くいただきまして誠にありがとうございました。
今作では使用されていた楽曲や出版物について知識が全くございませんでしたので、NOBU様のレビューを拝読して「知っていればもっと楽しめたのになぁ」と少々残念思いました。でも楽しめました。
共感ありがとうございます、
平山は、過去の柵を捨てて清貧生活をしていますが、
彼の表情には、達観しているというか開放感がありまおnした。
中盤で、姪と母親が登場して、彼の過去が少し見えます。
かなり経済的に裕福だったこと、父親と壮絶な確執があったと推察できます。彼は、特に人間関係の柵を捨てて開放されたと感じました。
だから、過去の二の舞にならないように人間関係に距離を置きます。
しかし、それでも、相棒は勝手に辞めるし、馴染みのスナックのママのところにも元夫が現れ、平山の心は乱れます。怒ります。ルーティンを破って沢山の酒を飲み、煙草も吸います。
平山のルーティンは、人間関係が穏やかで、順調であることが前提です。我々の生活も同様です。人間社会で生きている以上、当然です。
平山の清貧生活がDAYSではなくLIFEになるためには、人間関係に距離を置くのではなく、人間関係としっかり向き合わないとダメだと思います。難しいことですが。
人間社会の中で、人は人との繋がり、絆を糧にして生きていくものだと思います。あくまで経験に基づいた私見ですが。
では、また。
ー以上ー
NOBUさん、コメントありがとうございました。ほんとそうですよね。年末にこの映画を観て今あるこの日常があたりまえでないことを改めて認識させられ、年始早々からの大災害の連続。何かを暗示していたのかとさえ思えてきました。私も、今に感謝しつつ、日々なんらかの形で還元していきたいとより強く感じた次第です。
おはようございます!
明けましておめでとうございます!
紅白にエレカシ出たんですね~
私的にはネットニュースでYOSHIKI紅白…ってのを見てそっちが気になってました。まぁ観てないんですけど(笑)
私の職業はサービス業側なので今日も仕事っす!(笑)
なので年末年始とか関係ないっす(笑)
あとコメントしやすいなら良かったです!あと映画の知識は全くないですが私(笑)観るオンリーなので。
PERFECT DAYS2回鑑賞されたんすね!
何度も観たくなる作品に出会えるっていいですよね!
では、今年もよろしくお願いします!
買ったのはビールではなくハイボールではなかったですか?
嬉しい時に飲むのはビールですが忘れたいことがある時に飲むのはウィスキーなんだとちょっと思ったので…
こちらこそ今年もありがとうございました!
お察しの通りw
私は本日仕事納めで、その後2本からの飲んでました。
今年は後8本、明日も早いので帰って寝ますw
来年もよろしくお願いします。
よいお年を!
コメントありがとうございました。私は音楽にあまり詳しくないですが、カセットからあの曲が流れてきた時は、あぁいい映画だなと思いました。
こちらのイオンでは昼間だけの上映ですが、平日にも関わらず8割ほど埋まってました。(若い人はあまりいませんでしたが)
ご返信ありがとうございます。
劇中、自分ならイラッとする場面でも微笑みを浮かべている平山が不思議だったんです。
それだけなら「こんな人いるか?」で終わるのですが、彼もやっぱり人間だった。
何かは分からないまでも、抱えているものがあり、過ごしてきた時間があるからこその、深みを感じます。
役所さんの表情が本当に絶妙に味わい深かったです。
こんにちは。
頑なに拒んだはずが、結局ガス欠でカセットを売った(であろう)のはクスッとなりました。
反面、悪態ひとつ吐かずに来た道を戻る背中に、人の良さと哀切を感じずにはいられません。
このように、多くを描かず重層的に表現されているのが素晴らしかったです。
この映画は面白いぞと確信ってありましたが、私も同感です。
ベンダースの映画なので、びっくりするような展開など、期待もしていないけど、今を生きること何大事って感じます。
おはようございます。
人生の真なる豊かさ。。正に!
NOBUさんのレビューは作品同等にガツン!!ときます。
平山の、究極シンプルな生き方に憧れと理想を見た気がしたのと、この生き方に至るまでの過去を想像し、、余韻に浸っています。
生きていく。。って奥深いですね♪
>男の顔は、笑顔でありながら涙が目尻に湧き、徐々に上記の色々な小波を思い出したのか、泣き笑いの表情になって行くのである。
共感です。大いに共感です。
>平日には付けない時計を手首に付け、
そういわれてみればそうでした!
曲名なども助かります。プレイリスト作りたかったので。
NOBUさんの、凄い記憶力と知識に脱帽です。
NOBUさん、素敵なコメントありがとうございます。パンフいいなあ。行列だったので残念ながら買いませんでした。音楽と映画がバシッと自分に来たらもう最後ですよね!NOBUさんが幸せで私も嬉しい!