劇場公開日 2024年7月12日

「“犯罪”を様々な立場で考える」メイ・ディセンバー ゆれる真実 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5“犯罪”を様々な立場で考える

2024年7月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

観賞動機は「ナタリー・ポートマンが出ているから」それだけだった。

【物語】
女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、ある町に暮らすグレイシー(ジュリアン・ムーア)、ジョー(チャールズ・メルトン)と3人の子供の家庭を訪れる。20年前にこの夫婦が起こした事件を映画化することになり、グレイシー役を演じることになったエリザベスが役作りのために彼らを知ることが目的だった。

その事件とは、当時36歳の人妻だったグレイシーと13歳のジョーが恋に落ち、その情事が表沙汰になり世間を騒がせたのだった。そのことで服役したグレイシーは、ジョーとの間にできた長女を獄中で出産。出所後結婚した二人はさらに双子の兄妹を授かり、その双子も近々に高校卒業を控えていた。

エリザベスはその町にしばらく滞在して家族の元に足繫く通い、さらには事件後別れた元夫や元夫との間の子供達にも会いに行き、事件当時と現在の心境を聞いて回る

【感想】
観る気になったのは、冒頭に書いたとおりだが、それも公開数週間前に鑑賞予定に入れたままだったので、鑑賞時には観賞動機さえすっかり忘れていた。実質的に予備知識皆無で観始めたので、冒頭しばらくは「どんなストーリー???」となかなか呑み込めなかった。エリザベスが最初に登場したときには久しぶりに観るナタリー・ポートマンに気付かなかったくらい(笑)

話が進むにつれ、「そういう話なんだ」と徐々に分かって来た。そうなると、「これって、もしかして実話?」と思うようになって来た。観賞後に確認するとやはり実話がベースになっていることが分かった。

それを踏まえて改めて思い返すと、なかなか他人には分からない人の気持ちが、2人だけでなく、彼らを取り巻く周囲の人達のそれぞれの立場で丁寧に描かれていることが分る。(当然フィクションも含まれているとは思うけど。)

まず、思うのはグレイシーは刑事罰を受けるのだけど、これは「犯罪なのか?」というところ。不倫という点では道徳に反するところは明らか。相手が13歳というところで、日本でも現代では犯罪になるけれど。 グレイシーとジョーのケースはその後20年以上カップルの関係を維持・継続(刑事罰もありいつ入籍したか分からないが)し、子供も成人まで育て上げた。そういう意味では相手への愛情関係の責任を十分に全うしていると言えるだろう。

こんなことは稀なケースであるから、「未熟な青少年相手に大人が優位な立場で性的関係を結んではいけない」という理屈は分かる。そういう意味では事件発覚時に刑事罰を受けたことは妥当と言えるかもしれないが、20年経過したこの夫婦を今の時点では他人が白い目で見るのは違うように思える。少なくとも俺は忌み嫌うとか「気持ち悪い」と思うことは無い。 大人同士が結婚して、子供を作って、簡単に分かれてしまう夫婦より、ずっと素敵なカップルだと思う。

本作を観て思い起こすのは先日観た“プリシラ”。これはエルヴィス・プレスリーが兵役中にドイツで出会った米軍将校の娘である14歳のプリシラに恋をして、退役後彼女が15歳くらいのときに自宅(プレスリーの両親も同居)に住まわせて、大人になるまで待って結婚するという実話。映画では18歳くらいまでは性的関係を持たなかったことになっているのでこちらは犯罪扱いにはなっていないが、世間一般の概念ではかなりきわどい話かと。

性的関係を持たなければ純愛で性的関係を持つと犯罪なのか。俺的には自分の欲求だけで考えているか、相手を大切な存在として考えているかが、犯罪と純愛の分かれ目だと思う。そういう視点では、グレイシーとジョーの関係はお互いを大切に20年を過ごしたものと思う。

もちろん、相手を大切に思えばこそ青少年が自ら正しい判断を下せる年齢まで大人は自制するというのが模範解答なのだと思うけれども、その年齢は幾つが妥当なんだというのは相当難しい。日本の法律・条令では18歳が基準になっているようだが、一方で「同世代ならもっと低年齢でもOK」というのも「なんかなあ」という気はする。この基準は世界一律の訳もなく、絶対的に正しい基準などあるわけないのだが、法律・条令はどこかで線を引かなければならないので仕方ないけれど・・・

一方で、グレイシーのケースは不倫なので元夫あるいは元夫との間に居た子供を傷つけた事実も描かれていて、そういうグレイシーの罪は免れないこともしっかり描かれている。

個人の価値観、倫理観で感じ方はそれぞれと思うが、グレイシー、ジョーの2人だけでなく、周囲の人間の当時と現在の気持ち両方を丁寧に取り上げているところに好感を持てる。

最後に目当てのナタリー・ポートマン触れておくと、若い頃とはまた違う魅力が感じられて満足しました!

泣き虫オヤジ