二つの季節しかない村

劇場公開日:

二つの季節しかない村

解説

「雪の轍」で第67回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したトルコの名匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督が、トルコ・アナトリア東部に広がる荘厳な自然の大きさと、自我に縛られた人間の悲しいほどの小ささを大胆に対比させて描いたドラマ。

冬が長く雪深いトルコ東部の村。プライドの高い美術教師サメットはこの村を忌み嫌っているが、村人たちからは尊敬され、女生徒セヴィムからも慕われていた。ところがある日、サメットは同僚ケナンとともに、セヴィムたちから身に覚えのない“不適切な接触”を告発されてしまう。そんな中、サメットは美しい義足の英語教師ヌライと知り合う。

主人公サメット役に「シレンズ・コール」のデニズ・ジェリオウル。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、ヌライ役のメルベ・ディズダルがトルコ人として初めて女優賞を受賞した。

2023年製作/198分/G/トルコ・フランス・ドイツ合作
原題または英題:Kuru Otlar Ustune
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年10月11日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第76回 カンヌ国際映画祭(2023年)

受賞

コンペティション部門
女優賞 メルベ・ディズダル

出品

コンペティション部門
出品作品 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
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(C)2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VAST / ARTE FRANCE CINEMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME

映画レビュー

4.0感動や衝撃とは一味違う不可解な人間模様に引き込まれる

2024年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

かつてヌリ・ビルゲ・ジェイランの映画に魅了されてトルコを旅した経験のある筆者にとって、今回の新作はアナトリア東部の村に広がる雪景色にどっぷり身を浸しつつ、そこに立ち現れるクセの強い嫌なキャラクターに絶えず心をかき乱される3時間18分だった。面白いもので、その嫌なやつぶりが定着すると、徐々に自分の中の印象が「彼が」ではなく「人間ってやつは」に変わる。どんな場所でも、状況でも不満タラタラ。こんな人はどこにでもいるし、ある意味、私の内部にも確実に彼は存在する。そんな普遍的な写し鏡のようにすら思える状況がそこには刻まれ、主人公の身勝手さが上書きされるたび、対比的に壮絶な過去を持つヒロインの、後ろ向きではない生き様が際立っていく。決して感動や衝撃といったカタルシスではなく、それとは別次元のなんとも不思議で不可解な心模様に連れ込まれる異色作。後半でふと差し挟まれるちょっと思いがけない描写も楽しみたい。

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共感した! 4件)
牛津厚信

4.0厳しくも美しい大自然に対比させられた主人公の卑小さに魂が震える

2024年10月15日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

映画のあちこちにアンバランスな二項対立が散りばめられている。自然と人間、教師と生徒、男と女、管理・監督する側とされる側、理想と現実、善と悪、個人と集団、若さと老い、夢と挫折感。そうした対立する要素が複雑にからみ合い、ストーリーに緊張感と推進力をもたらしている。

トルコの名匠と称されるヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の直近3作品は、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「雪の轍」、「読まれなかった小説」、そしてこの「二つの季節しかない村」と、いずれも3時間超の重厚なヒューマンドラマ。主要人物らによる現実的な話題や問題についての対話や論争から、「人間とは何か」「生きるとはどういうことか」といった哲学的・観念的なテーマが浮かび上がってくるのも共通点で、大長編の文芸作品を読み進めるのにも似た鑑賞体験と言える。

主人公の中年男性教師サメットは、自尊心が強くて村人を見下したようなところがあり、卑しくてずるい部分もある。ジェイラン監督は屈折したインテリの嫌なところをこれでもかと徹底して描き、観客の多くはサメットを好きになれないはずだが、隠しているつもりの自分の醜い内面を見透かされたようで、精神の深いところ、あるいは魂が震えているのではないかという気さえしてくる。本質的に近しい部分がいやおうなしに共振してしまうというか。

本編の約2時間半過ぎ、サメットとヌライの長い対話のあとで、構築された映画の世界を崩すような意表を突く演出がある。さまざまな解釈が可能な仕掛けだが、映画世界の虚構を見せることによって、自分から見えている世界に絶対的な真理はない(見えない裏側がある)ということ、言い換えるなら“主観の世界の相対性”を象徴しているではないかと個人的には感じた。

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高森 郁哉

諦念なのか擦り切れた希望なのか

2025年1月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 『雪の轍』『読まれなかった小説』と、「こんな重苦しくドロドロした映画をなぜ3時間も観続けねばならないんだ」と窒息しそうになりながらも、強い印象がいつまでも尾を引くイランのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の新しい作品です。今回もやはり、イランの地方都市を舞台に村社会の因襲・人間の狡猾さ・経済的閉塞感にがんじがらめになって身動きできない人々のお話で、198分の長編です。

 こんな田舎は早く出て都会に赴任したいと願う美術教師が、もがけばもがくほど地方の泥沼にはまって行く物語。その泥沼の泥一粒一粒を顕微鏡で観るように微細に描いて行くのが監督の手腕です。この教師の心象風景と同じく、この村も荒涼としているのですが、それが荒涼ゆえに美しいというのも皮肉です。

 重い絶望に押し潰されそうになって絞り出される「諦念」をも「擦り切れた希望」と呼び変えようとする男が他人とは思えなくなって来るのでした。

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La Strada

5.0人間の心中を如実に描いている傑作。サメットは薄気味悪い!

2025年1月14日
PCから投稿
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Socialjustice