「ジョナサン・グレイザーの決断」関心領域 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
ジョナサン・グレイザーの決断
ジョナサン・グレイザー監督は「関心領域」の準備から
完成までに10年間以上をかけたといいます。
マーティン・エイミスの原作は第三者を主役とした小説でした。
もちろんグレイザー監督は多くのインスピレーションを原作から受けて
土台になっているのでしょうが、具体的な人名・アウシュビッツ収容所の
所長のルドルフ・ヘスの名前と妻のヘートヴィヒの実名を使用したのは
グレイザー監督の英断でした。
これは大成功だったと思います。
特に妻の役を演じたサンドラ・ヒュラーのヘートーヴィヒは
何者にも変え難いリアルな人物像でした。
豚鼻声のシーン・・・普通の女優には出来ない描写です。
粗末な塀一つで隔てられたアウシュビッツのガス室や焼却装置のすぐ隣。
そこにヘートヴィヒの理想の家・・・ユートピアがあった。
バラやタリアなどの花を咲かせ、温室で野菜やハーブを育て、
プールではしゃぐ。
轟轟とした機械音に人体が焼かれる煙の匂い、そして時折聞こえる
銃声とユダヤ人の叫び声。
ヘートヴィヒは音にも匂いにも不感症だったのでしょうか?
遊びに来た実母は夜中に燃え盛る焼却炉の音や匂いに耐えきれず
ほうほうの体で逃げ出します。
朝食の皿を用意したメイドに、
「わざと当てつけで皿を並べたの?夫に言って灰にして撒いてしまうから、」
と、なんとも恐ろしい事をポロッと言うヘートヴィヒ。
夫のルドルフも妻のヘートヴイヒも子供も、みんながユダヤ人が毎日何千人も
殺されている事に、集団ヒステリー状態に侵された異常な精神状態
だったのでしょう。
★★★もう一つの印象的な場面。
画面が白黒になるシーンです。
ルドルフが子供に「ベルゼルとグレーテル」の童話を読み聞かせてると、
夜中に若い女の子が自転車を押して、アウシュビッツの敷地内に入り、
目立たぬようにりんごやジャガイモを隠していたのです。
その少女はルドルフ邸に住み込みで働くポーランド人のメイドのマルタ。
グレイザー監督は生前の90歳のマルタに面談して、マルタが実際にその時に
着ていた洋服を役者に着せたし、使った自転車もマルタの物・・・
という凝りようでした。
(正直な所、ユダヤ人の土木作業所だったのは言われてみれば分かるけど、
(土が掘られてデコボコぬかるんでいましたね、)
またマルタは缶の中に入っていたユダヤ人の詩や作曲した歌も
持ち帰っていました。
映画で読まれる詩・・・それがその時のものです。
2025年の現在。
イスラエルは大きな戦争をしていて、どうしても加害者側に見えてしまって
戸惑うのですが、
ヨーロッパ諸国では、ユダヤ人のホロコーストを防ぐのにもっと
本気で食い止めなかった・・・そう言う負い目がある、だから
イスラエルに強い事が言えない・・・
またイスラエルにすれば、今、芽を摘み取っておかなければ・
またしても被害者になってしまうのでは?
そういう恐怖もあり、ハマスに強硬姿勢を貫いているとの記事を
読みました。
この映画のテーマは、突き詰めれば、
2度と【ホロコースト】を起こしてはならない、
2度と【ジェノサイド】を起こしてはならない、
だと思います。
そして一番度肝を抜かれたのは最初の3~4分間、
そしてエンドクレジットに流される7分以上の不協和音。
阿鼻叫喚のようなうめき声、呪い声、悲鳴・・・
なんとも言いようの無い恐ろしい音。
この映画は観るものの覚悟を推し量る物差しでした。
おはようございます😃
コメントありがとうございます。一応録画して途切れ途切れ途切れ観たりしています。家でゆっくり観てもまだ雰囲気あります。琥珀糖さんのひたむきな姿勢にあたまが下がります。
私、冒頭の真っ暗け、料金かえしてと思ってました。
音だけで想像させる演出は、伝わらない人もいる可能性があり、賭けだと思います。
スタイルを貫いた監督を称えたいですね。
今起こっていることも、過去の因縁が絡み、すんなり解決しないのがもどかしい…。
コメントありがとうございます。「シンドラーのリスト」未だに見ていないです。「愛を読む人」も同じ理由でずっと見ていませんでした。でも配信で見て、俳優の力もあり原作よりはいいかな、と思いました
こんばんは♪
共感ありがとうございます😊
鑑賞されましたね。
詳しくよく調べられましたね。
星🌟5ですね。凄い。
ユダヤ人差別が根強くドイツ🇩🇪に対して畏れを抱いて分かりませんが、
防ぐより推進せざるを得なかった、
ように感じますが。
英語母語話者のイギリス人のグレイザー監督が、この映画では俳優にドイツ語を話させることの重要性を認識してそのように決断して実行したことも素晴らしいと思います。ナチがらみのドイツが舞台の映画で、あと東西ドイツ、特に旧東ドイツがテーマの映画で、ドイツ語が話されない映画は私は基本的にみとめたくないです