「アウシュビッツ収容所を主題とする映画の新たな貌」関心領域 コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)
アウシュビッツ収容所を主題とする映画の新たな貌
1所長一家の日常生活を通して、アウシュヴィッツ収容所のホロコーストを描く。
2映画は収容所の隣に住む所長一家のピクニック場面から始まる。そして一家の豊かで秩序だった生活描写が続く。しかし、そこに収容所の実像を示すショットが次第に挟み込まれていく。収容所から運び込まれた服飾小物や貴金属を使用人たちと楽しげに分け合う場面。釣りや川遊びの最中に不気味に濁って来る川。濁りの原因は焼却された遺骨や遺灰である。圧倒的なのは、昼夜問わず聞こえ来る所内の怒号や悲鳴、銃声などの音。そして煙突からの黒煙。所内の行状を一切見せずにそこで何が行われているのかを如実に示す。とても効果的であり、斬新な手法であった。
3 所長と妻の関心は、手にした権限や暮らしを守ること。収容所から聞こえる音や眼に入る煙、そして恐らく洩れてくる臭い、すなわち日常的なホロコーストの証には無関心。所長は現場の責任者として、国策を実現するため効率的な施設運用を実行している。その点では当時の価値観に照らせば優秀な組織人であり、仕事として割り切っている。強権的な所長像を想像していたが、冷静な軍人であった。それゆえ最後の場面では、ハンガリーを対象とする新たな抹殺計画を担う重責が作用し吐き気を催したと思う。
一方、その妻は家や庭は我が城であり、主として仕切る中で、収容所は暮らしを維持するための必要条件として捉えるようになったのではないか?
4 遊びに来た母親が一晩で黙って消えた。収容所で行われていることに想像が及びその恐ろしさに気づき忌避したと思う。また、地元の名も無き女性が夜陰に紛れて食べ物を運んだ姿は神々しい輝きを放った。映画は、歴史の記憶を残す博物館として、丁寧に維持管理されている現在の姿を示して終わる。この映画を通し、歴史を学ぶと同時に何に関心を向けるのか個人の度量を試されるように思えた。
共感ありがとうございます。
りんごを配る少女、事実だったその勇気を考えると本当にすごいことだと思います。
一方、現代に続くシーンではっとさせる見せ方が秀逸な分、自分について考えさせられました。