劇場公開日 2024年5月24日

「映画館で鑑賞すべし」関心領域 オパーリンブルーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画館で鑑賞すべし

2024年6月5日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

スマホの小さな画面でなく
リビングで日々の雑音に紛れてとかでもなく
ノイズが極力無い映画館で鑑賞するべき映画
映像と音響、加えて没入感が揃うことで、製作者の意図が伝わることでしょう

『ヒトラーのための虐殺会議』をU-NEXTで見てからこちらを鑑賞しました
『虐殺会議』でナチスは戦時において貴重な輸送手段を振替えてまで、ユダヤ人を絶滅収容所に送り、予算をさいて画期的な焼却炉を作ったのかが何となく理解しました
そして本作で、この“作戦”を実行する人と周囲の人々、その時代を生きた一般人の姿を見ることが出来ます

ストーリーはあるようで殆ど無い。その映像前後の説明も、時間経過の表現もなく、切れ切れに撮影されたよその家のホームビデオを淡々と観るような…。子どもたちが5人も登場するが、映像が遠くからのショットなので、見ている私達は顔も識別出来ないし名前もよく分からない
(後日談、末っ子の女児の赤ちゃんは出生届の出生地が“アウシュヴィッツ”と記載されて、一生逃れられない焼印のようになってしまった、とか)

『ヒトラー暗殺、13分間の誤算』で暗殺犯を演じたクリスティアン・フリーデルが、今回はヘス所長を演じてるとか
『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラーが、ヘス所長の妻役で、より一層憎々しげに役になりきってるとか、これも見どころ

所長の妻が丹精を込めて育てている庭に咲き誇る花がアップになり、その際の音響が物凄い重低音で椅子に縛り付けられたような圧と共に恐怖を感じ、かなりあとでその花々の意味するものをサラッと映像で見せられて、心底ゾッとする

エンディングの曲が、これまた死ぬほど怖い。上映が終わり、立ち去る人々全てが言葉少なになっていた。私も映画後、食事の予定だったのに、30分くらい経たないと食欲が戻ってこなかったほど

この映画が意味する寓意も分かるが、あのエンディングの曲だけは、製作者の悪意を感じた。ベタだけど鎮魂歌のような曲に出来なかったのか
この映画の見えない場所で命を落とした大勢の人々、現代においても迫害され命を脅かされている人々、またこの映画で加害者として描かれた人々もまた、現世からの激しい指弾と非難を受けてあの世で苦しんでいるのだろうから。

オパーリンブルー