レンフィールドとは、1931年に作られた『魔人ドラキュラ』に登場する人物である。
『魔人ドラキュラ』は現在我々がイメージする黒マントのドラキュラ伯爵の姿を全世界に広めた伝説的な映画なのだけれど、この作品にはドラキュラ伯爵の他にもう一人、強烈な印象を残すキャラクターが登場する。
それがレンフィールドである。
『魔人ドラキュラ』のレンフィールドはイギリス人弁護士であり、ドラキュラ伯爵のロンドン移住計画に伴う不動産契約の手続きをするためにはるばるトランシルヴァニアのドラキュラ城まで招かれるのだけど、哀れ伯爵の毒牙にかかって彼の忠実な下僕に成り果ててしまうのだ。
『魔人ドラキュラ』ではレンフィールドは一応人間ではあるのだけど、虫を好んで食べる半吸血鬼みたいな存在として描かれている。
レンフィールドにはまだ人間としての心が残っているのでドラキュラの下僕として働くことに罪の意識がある。でも同時に人間という窮屈な存在から解き放たれてけっこうハイテンションで(笑)、ドラキュラに仕えることに喜びを感じてもいる。
『魔人ドラキュラ』でレンフィールドを演じたドワイト・フライという俳優は、人間と怪物のはざまで揺れ動く、この奇妙な虫喰い男を鬼気迫る強烈な演技で演じ切って観客を圧倒した。
なんで、こんなにレンフィールドに詳しいのかと言うと、つい先日『魔人ドラキュラ』を観たばかりだからである(笑)。
本作は、このレンフィールドという怪人がドラキュラ伯爵と共に現代まで生き続け、アメリカのニューオーリンズに移り住んできたら…という設定の、言わば『魔人ドラキュラ』のスピンオフ作品である。
レンフィールドを演じるのはニコラス・ホルト。
自分の中では神経質そうなピリピリした人物を演らせるとメチャクチャ上手い俳優というイメージなのだけれど、今回もドラキュラ伯爵の下僕として生き続けることに罪悪感を感じ、何とか伯爵の支配から逃れようと四苦八苦する繊細な主人公をコミカルに好演している。
なにせ、本作のレンフィールドは街の教会が主催している共依存に悩む人たちのためのグループセラピーに参加するくらいドラキュラ伯爵との共依存関係に悩んでいるのだ。
言われてみれば確かに吸血鬼は日中は活動できないため代わりに色々と働いてくれる人間の下僕を必要としており、下僕もまた吸血鬼からパワーを貰って生きているので、お互いに共依存の関係にあると言えなくもない。
こう書くと、本作は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のような、一風変わったオフビートなホラー・コメディーのように感じるかもしれない。もちろん、そういう部分もなくはない。
でも、本作を監督したクリス・マッケイはあの痛快作『レゴバットマン ザ・ムービー』を手がけた才人であり、痛快エンタメのツボというものをちゃんと心得た人なのだ。
ドラキュラ伯爵との共依存関係にウジウジと悩む繊細な青年レンフィールドは、実はひとたび虫を食べると凄まじい怪力やスピードを発揮する一種の超人であり、彼はその超人的身体能力を正しいことに使うという決意を固め、ドラキュラ伯爵や、伯爵の新たな下僕となった街のギャングたちと壮絶なバトルを繰り広げるのである。
本作はむしろ『ブレイド』シリーズのようなストレートな痛快ホラー・アクションに属する作品であり、自分は『ブレイド』シリーズが好きなので、本作がアクション満載というのは嬉しい誤算だった。
ただ一方で『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』的なオフビート感を期待していたため、結構ストレートな物語にちょっと肩透かしを食って物足りなさを感じてしまったというのはあるかも知れない。
でも、そんな物足りなさを補って余りあるのがニコラス・ケイジの怪演である。
ニコラス・ケイジは奇人変人的なキャラクターを演らせると本当に上手い。いや、上手いとか下手を超越して、彼にしか出せない唯一無二のヘンテコさを出せる稀有な俳優だと自分は思っている。
ドラキュラ伯爵というのは、映画界では手垢がつきすぎて、誰がどう演じても陳腐な感じがしてしまう非常に難しいキャラクターだと思うのだけど、ニコラス・ケイジは変に現代的なアレンジをすることなく、この古風なモンスターをイカれた怪演で演じ切ってみせた。
ニコラス・ホルト演じるレンフィールドは、アクションシーンこそゴア描写満載で迫力があるものの、キャラ的にはいささか生真面目すぎて小さくまとまってしまった感がある。
それに対して、ニコラス・ケイジ演じるドラキュラ伯爵は大仰で慇懃無礼、かつ凶暴極まりないイカれたモンスターであり、彼が登場すると画面から目が離せなくなる。
『魔人ドラキュラ』でレンフィールドを演じたドワイト・フライのイカれた怪演ぶりは、ニコラス・ホルトではなくニコラス・ケイジの方に受け継がれてしまったようである。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニュークスみたいにぶっ飛んだニコラス・ホルトが観たかったけれど、ニコラス・ケイジが演じるドラキュラ伯爵を観られるというだけでも一見の価値ありの作品と言える。
本作は日本では劇場公開されずDVD &配信スルーになってしまったけれど、『ブレイド』シリーズのようなホラー・アクションや『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のようなホラー・コメディーが好きな人なら観ておいて損はない快作!
でも、『トワイライト』シリーズや『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』みたいな耽美的なヴァンパイアが好きという人は、う〜ん…観なくていいかも知れない(笑)!