「北野武というよりビートたけし」首 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
北野武というよりビートたけし
北野武が2019年に発表した小説を、自らの手で監督・脚本・編集・主演として映画化。
織田信長の家臣である荒木村重の起こした謀反をキッカケに、信長の跡取りを巡って各大名達が裏切りや騙し合いを重ね、やがて「本能寺の変」に至る。
昨今の世情を踏まえてか、同性愛の要素も盛り込まれている。信長役の加瀬亮をはじめ、明智光秀役の西島秀俊、村重役の遠藤憲一らの熱演が光る。
KADOKAWAが制作費を全額出資したらしく、総製作費は日本映画としては破格の15億円。その為、衣装や美術、ロケーションに至るまで悉く豪華絢爛。合戦シーンの迫力も臨場感抜群。画面の鮮やかな色合いも相まって、殺伐とした世界観のはずなのに、北野武作品の中でもトップクラスの美しさ。絵的な迫力は申し分無い。
既に多くの人が指摘している通り、本作は戦国時代版『アウトレイジ』と言って間違いないだろう。容赦無い斬首描写や首の断面まで作り込まれた気合いの入ったゴア描写、血飛沫舞う合戦シーンと、ここに来てバイオレンス描写の数々には更に磨きが掛かったように思う。
ただ、この内容で上映時間130分は長過ぎる。途中何度か間延びしているように感じられるシーンもチラホラあった。振り返ると、今までの北野武作品(特にバイオレンスモノ)は、どれも120分以内の尺で収まっている。本作を鑑賞した事によって、北野作品はテンポ良く語られるストーリーテリングの上手さも魅力だったのだと実感した。
壮大な歴史モノではありつつも、硬派に描くのではなくコミカルに。特にたけし率いる秀吉勢のやり取りはコントそのもの。ラストで目の前にある首が明智光秀のものだと誰も気付かないいい加減さも笑える。
終いには、今まで散々首を取る為に裏切り合い、殺し合って来たにも拘らず、「俺はな、明智が死んだことさえ分かれば、首なんかどうだっていいんだ!」と、秀吉が目の前にある光秀の首を蹴飛ばして終わる。その痛快さには参った。
加瀬亮の織田信長の演技は、“尾張の大うつけ”と呼ばれた少年時代を表しているかのよう。表向きには“第六天魔王”と呼ばれ畏れられているが、家臣達への傍若無人な振る舞いは子供の遊びのよう。それがある意味恐ろしくはある。『アウトレイジ』での演技で相当北野監督に気に入られたのだろうか、本作でもオイシイ役所を射止めたなという印象。
北野武というネームバリューの成せる業か、出演陣も悉く豪華。先述したキャスト以外にも、浅野忠信や中村獅童ら、本来なら主演級の俳優が脇を固めている。
製作費や俳優陣を指して、とにかく豪華と呼べる一作なのは間違いない。しかし、深みは無いように感じられた。あるいは本作は、監督・北野武としてではなく、お笑い芸人・ビートたけしとしての壮大なコントだったのかもしれない。