「その首で天下を狂わせ」首 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その首で天下を狂わせ
本作の公開までの一悶着はあまり触れないでおこう。
たけし側とKADOKAWA側のいざこざ。映画人/映画会社としてそれぞれ譲れない言い分も分かるし、何だか大人げない部分も…。
一時は公開危ぶまれ、お蔵入り…なんて囁かれたが、いつの間にか完成して、カンヌ国際映画祭で披露された時は驚いた。
同時に安堵もした。
『アウトレイジ 最終章』以来6年ぶりの新作。監督キャリア最大の大作。
構想30年。黒澤時代劇に憧れ、親交あった黒澤から、「北野君がこれを撮れば『七人の侍』と並ぶ傑作になる」と。
黒澤インスパイアと念願の北野流娯楽戦国活劇。
お蔵入りされる事なく、本作を劇場大スクリーンで見れた事をまず喜びたい。
題材は、本能寺の変。今年『レジェンド&バタフライ』でも描かれ、これまでにも何度も何度も何度も。
それをたけしがどう描くか。
たけしが秀吉を自ら演じる時点で史実に沿ったリアル志向の時代劇ではないのは明白。戦国武将たちの実年齢はよく分からないが、信長=加瀬亮、秀吉=たけし、家康=小林薫、光秀=西島秀俊…イメージや年齢的に合ってるの…?
たけし流の独自解釈。いや、やりたい放題。
時代劇ならではのスケールや合戦シーンは勿論、バイオレンスや笑いもいっぱい。
我々のイメージとは違う戦国武将たちの謀略や覇権争い。
そう、これはもう“戦国アウトレイジ”だ!
作品によっては恐ろしくも威厳たっぷりに描かれる信長。
今回のイカれた狂人っぷりはヤベェ…。
邦画史上最狂の信長と言って良し。“魔王”と恐れられ、キムタク信長より魔王感出ていた。加瀬亮のハイテンション怪演も見事。
宴の席で家臣の命を弄び、「俺の為に死ぬまで働け!」「皆殺しに決まっとるがや!」。昨今またもやパワハラ問題に揺れる中、大丈夫…?
そんな親方様に翻弄され、殴る蹴る暴力を振るわれながら忠義を通す家臣たち。
“エテ公”秀吉。たけしが演じているので一筋縄ではいかない。
“ハゲ”光秀。家臣のなかで唯一真人間に思えるが…。西島秀俊が巧演。
“タヌキ”家康。腹の底が見えぬ雰囲気を小林薫が滲ませる。
信長の跡目は誰か。虎視眈々と狙う。継承するか、それとも…?
秀吉家臣の秀長と官兵衛。たけし・大森南朋・浅野忠信のやり取りはまるで漫才トリオ。
誰の側か分からぬ千利休の岸部一徳。
思ってた以上に出番が多かった木村祐一演じる抜け忍。
バカ丸出しの中村獅童演じる農民。
武将たちから農民まで。皆、一癖も二癖もキャラ濃すぎっ!
野心、手柄、裏切り上等、殺るか殺られるか。
タイトルにもなっている“首”がポンポン飛ぶ。邦画史上最も首が飛んだであろう。
信長と蘭丸、光秀と村重。野郎どもだらけの世界だからこそ男色に溺れる。
欲にまみれ、首飛び血みどろバイオレンス、コントみたいなシュールな笑いがまた拍車をかける。
こんな剥き出しの戦国時代、昨今なかなかお目に掛かれない。
たけし曰く、最近の時代劇は綺麗事過ぎる。
NHK大河ドラマは今をときめく人気俳優を起用し、視聴者媚び。
『蜩ノ記』や『散り椿』なども悪くはないが、品行方正で理想的過ぎる。
かつての黒澤時代劇はどうだったか…?
もっと泥土を被り、荒々しかった筈。
黒澤の後継者は小泉尭史や木村大作ではなかった。北野武だった。
単なる戦国バイオレンスだけではなく、たけしの歴史への考察も垣間見える。
光秀の信長への謀反の理由。幾ら想い抱いても、あんなに虐げられ罵られたら…。
本能寺の変で信長の首を切ったのは…。意外過ぎるアイツ!
光秀の最期。
家康をもそそのかし、全ては“サル”の思惑と手中通り。農民から天下人へなれたのも納得…?
資料を調べ上げある程度史実に沿った部分もあるだろうし、史実崩壊部分もあるだろう。
が、これはこれで一理あるから面白い。
首を斬れ!
首を取れ!
その首で天下を掴む。
一大下克上。
ラストシーンの“首蹴り”はこれまたたけし流の痛烈な笑いが効いていた。
見てて思ったが…、
戦国時代ってそれぞれキャラが立ってて、それぞれに語られるドラマがあって、一堂に会する。
戦国時代は『アベンジャーズ』だった…?