「浅草芸人から“世界のキタノ”になったたけしが、百姓あがりの天下人・秀吉を演じる必然」首 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
浅草芸人から“世界のキタノ”になったたけしが、百姓あがりの天下人・秀吉を演じる必然
ある時代の暴力と上下関係を伴う男性社会の群像を、男色の要素を加えて解釈するという点で、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」(1983)と「御法度」(1999)の影響を感じる。前者では監督デビューする前のビートたけしが国際的合作に初めて抜擢され、大島監督の遺作となった後者では主演。タブーに挑戦し続けた巨匠の遺志を継いだ北野武監督の集大成的作品でもある。
「本能寺の変」を題材にした本作でたけしが演じるのは、百姓から身を起こし織田信長亡きあと天下人へのぼりつめる羽柴(のちの豊臣)秀吉。脚本も手がけた北野は、秀吉の駆け出しの頃を思わせる元百姓の雑兵・茂助(中村獅童)と、落語家の始祖と言われる曽呂利新左衛門(木村祐一)という2人のキャラクターを配して、浅草芸人の見習いから出発し映画人として世界的に名を成した人生をかえりみるようでもある。
1994年のバイク事故の後遺症がなければ、秀吉の台詞回しの滑舌ももっと良かっただろうか。だが、ビートたけしの今のありのままを映画の中で秀吉に重ねることが、監督・北野武のたどり着いた境地なのだろうとも思う。
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