若き仕立屋の恋 Long versionのレビュー・感想・評価
全3件を表示
「手」は口ほどに物を言う
正直前半は中弛みを感じてしまい、これは「恋」なのか?と少々疑問に思ってしまった。
ホアはいつも電話しているけれど、割とお高くとまっているような、自分勝手な感じだし、どこに惹かれたのかピンと来なかった。
だいぶ衝撃的な出会いのシーンも驚いたが、様々な女に触れろ、女を知れという言葉が、ある意味本作の軸であったことに気付く。
その言葉とは裏腹に、ずっと一途にホアを想っていたけれど、"自分でない男に抱かれる彼女のため"の服を仕立てるために、彼女の身体に触れ、真っさらな生地に触れる。
その度に何度も彼女を抱いて、その全てを暴いて知り得てきたと言えるのではないか。長い年月の付き合いの中で、彼が知ったこと、想ったこと、成熟してきた日々を想った。
前半と対照的に、後半はグッと引き込まれる展開だった。美しい壁紙、生けられた花、丸く大きな鏡はもう無い。長く暗い廊下の奥にしか居場所が無くなり、武器だった身体的な魅力も消えてしまった。
それでも「あなたのサイズは全て知っている」と、そっと身体の縁をなぞり、背後から抱きしめる。それは、貴女が今ここに生きていることを私は認めている、と無言のうちに伝えているようだった。ホアが流す涙のように、雨が窓を打ち付ける。
ラストシーンの「手」で、ギュッと心を掴まれるとは思わなかった。唇に触れることを拒む手。身体的に結ばれなくても、手を介して交わる2つの人生。
触れそうで触れられない、果たされないものに、人はどうしたって惹かれてしまうのだと、スクリーンから切なくも溢れ出る本能的なその魅力に、身を委ねる贅沢な一瞬だった。
触れているのに交われない。 ウォン・カーウァイにしては、音楽の合わ...
触れているのに交われない。
ウォン・カーウァイにしては、音楽の合わせ方が…肩に触れたときのパンパカパーンみたいなのが……。
エロスの暗喩に満ちた56分
直立した長いうなじと暗く奥深い廊下。花様年華にも多用された印象的なこのモチーフが、性的な世界を表現していたことに今回気づいた。
全編これエロス。まさか粽にまでエロを感じるとは思わなかった。ホアが手作りした粽を食べるチャンのシーンは濃厚なラブシーンに等しい。
でも、この映画はエロだけではないのだ。
まだ幼さが残るチャンが粽を貪るのは、母や故郷を恋うているからだ。
同様に、ベッド下から見上げるホアの脚の動きが投げやりなのは、娼婦としてしか生きられない悲しみに蝕まれているからなのだ。
そしてクライマックス。チャンの唇を遮るホアの手が切ない。こんな愛情もあるのか。
原題は、愛神、手。
全3件を表示