「「手」は口ほどに物を言う」若き仕立屋の恋 Long version ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
「手」は口ほどに物を言う
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正直前半は中弛みを感じてしまい、これは「恋」なのか?と少々疑問に思ってしまった。
ホアはいつも電話しているけれど、割とお高くとまっているような、自分勝手な感じだし、どこに惹かれたのかピンと来なかった。
だいぶ衝撃的な出会いのシーンも驚いたが、様々な女に触れろ、女を知れという言葉が、ある意味本作の軸であったことに気付く。
その言葉とは裏腹に、ずっと一途にホアを想っていたけれど、"自分でない男に抱かれる彼女のため"の服を仕立てるために、彼女の身体に触れ、真っさらな生地に触れる。
その度に何度も彼女を抱いて、その全てを暴いて知り得てきたと言えるのではないか。長い年月の付き合いの中で、彼が知ったこと、想ったこと、成熟してきた日々を想った。
前半と対照的に、後半はグッと引き込まれる展開だった。美しい壁紙、生けられた花、丸く大きな鏡はもう無い。長く暗い廊下の奥にしか居場所が無くなり、武器だった身体的な魅力も消えてしまった。
それでも「あなたのサイズは全て知っている」と、そっと身体の縁をなぞり、背後から抱きしめる。それは、貴女が今ここに生きていることを私は認めている、と無言のうちに伝えているようだった。ホアが流す涙のように、雨が窓を打ち付ける。
ラストシーンの「手」で、ギュッと心を掴まれるとは思わなかった。唇に触れることを拒む手。身体的に結ばれなくても、手を介して交わる2つの人生。
触れそうで触れられない、果たされないものに、人はどうしたって惹かれてしまうのだと、スクリーンから切なくも溢れ出る本能的なその魅力に、身を委ねる贅沢な一瞬だった。
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