「ブルース・リーファンにとっての『死亡遊戯』のような、珍品だけどかけがえのない作品」中森明菜イースト・ライヴ インデックス23 劇場用4Kデジタルリマスター版 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ブルース・リーファンにとっての『死亡遊戯』のような、珍品だけどかけがえのない作品

2023年4月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

正直前半は一体何を観せられてるのかと首を傾げるくらい珍妙。そもそも元の映像がフィルム撮影ではなく粒の粗いビデオ撮影なのでちょいちょい走査線ノイズが出てきて4Kの意味がほとんど感じられません。当時の演奏順ではないから衣装がコロコロ変わる。MCも曲間の余韻もごっそり削られているので演奏も歌も全然新鮮味がない。すなわちライブ感がカケラもない。要するに普段聴いている音源と同じにしか聴こえないのでこれ全部ではないにせよ、結構な割合でテープ流してるのではなかろうか。ホーンセクションがバックにいないのに音は聴こえるし、歌もリップシンクが混じってるんではないか。出なければ音源を丸ごと差し替えてるか。全然そんなことなくて実際のライブの音なのだとしたらその再現度がエゲツナイということになりますけどね。あと演奏の最中にライブ前の舞台裏映像を差し込んだりするのも余計。それは冒頭のライブ前に見せてくれればいいもの。とはいえそこに現れるすっぴんの明菜は途方もなくキュートなので全然許してしまいますけど。しかしそんな様々な違和感を丸ごと蹴り飛ばすのが『難破船』。ここでファンは延髄に踵落としを喰らったかのような衝撃を感じることでしょう。ここは観れば解る。圧巻です。

ここでブチッと映像が切れてセトリが出てくるので恐らく当時のレーザーディスクをリマスターしたものの様子。編集前の映像データは残っていなかったのかな。で、この後半は前半と違ってグッとライブ感が出てくるので前半とはほぼ別物。違和感はゼロにはなりませんが明菜の声に精気が戻ってきたような生々しさがありますし、ここで見せる明菜の表情に宿った寂寥にキリキリと胸が締め付けられます。そしてここでようやく明菜のハプニング混じりのMCがあってそこでチラリと見せる茶目っ気にアラカンは全員ボディブローを食らうことになります。そしてクライマックス、これも観れば解る。圧巻です。

冒頭でも注意が促されますが終幕後に明菜からのメッセージがあるのでそれを聞くまでは席を立ってはダメです。まあ色々書きましたが1989年が明菜にとってどんな年であったかを知っている者にとってはかけがえのない傑作。要するにブルース・リーファンにとっての『死亡遊戯』のような作品です。

よね