夜の外側 イタリアを震撼させた55日間

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夜の外側 イタリアを震撼させた55日間

解説

イタリアの名匠マルコ・ベロッキオが、2003年製作の「夜よ、こんにちは」でも題材にした「アルド・モーロ誘拐事件」を再び映画化した人間ドラマ。

1978年3月のある朝。戦後30年にわたりイタリアの政権を握ってきたキリスト教民主党の党首で5度の首相経験を持つアルド・モーロが、極左武装グループ「赤い旅団」に誘拐された。国家を揺るがした55日間の事件の真相を、モーロ本人、彼を父と慕い救出の陣頭指揮を執った内務大臣フランチェスコ・コッシーガ、モーロと親交の深かった教皇パウロ6世、赤い旅団のメンバーであるアドリアーナ・ファランダ、モーロの妻エレオノーラら事件に関わった人物それぞれの視点から、史実とフィクションを織り交ぜて描き出す。

「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」でも同役を演じたファブリツィオ・ジフーニがアルド・モーロを演じ、「はじまりは5つ星ホテルから」のマルゲリータ・ブイ、「グレート・ビューティー 追憶のローマ」のトニ・セルビッロが共演。「イタリア映画祭2023」では「夜のロケーション」のタイトルで上映。

計6つのエピソードで構成され、イタリア本国では前後編にわけて劇場公開。日本でも前編(エピソードI~III)と後編(IV~VI)の各170分に分けて上映される。

2022年製作/340分/G/イタリア
原題または英題:Esterno notte
配給:ザジフィルムズ
劇場公開日:2024年8月9日

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(C)2022 The Apartment - Kavac Film - Arte France. All Rights Reserved.

映画レビュー

5時間40分に無駄な場面なし

2024年9月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 1978年、イタリア首相を5度も務め、当時はキリスト教民主党の党首であったアルド・モーロ氏が極左武装グループ「赤い旅団」によって誘拐され、55日後に遺体となって発見されました。本作は、イタリア現代史に暗い影を落とすこの事件を、政権内部・教会・家族・犯行グループなど様々な視点から描いた5時間40分の巨編です。その上映時間を見ると腰が引けてしまいますが、実際にスクリーンと向かい合うと、「これだけの物語なら、そりゃあこれだけの時間が必要だな」と、お話に引き込まれながら納得しました。無駄な場面は全くありません。

 当時のニュースで聞いてはいましたが、本事件にこんな複雑な背景があっただなんて全く知りませんでした。

 バチカンが200億リラ(現在の為替レートで16億円)もの身代金を秘かに調達していたって本当?
 拉致中のモーロから政府に届いた命乞いの声明は、赤い旅団に無理矢理書かされたの?
 その声明を見ての「モーロは狂った」との各方面からの声は本気だったの?
 当時のアンドレオッティ首相は、モーロ見殺しも仕方ないと内心思っていたの?
 学生の間では赤い旅団への支持も相当数あったの?

の疑問が次々湧き上がると共に、

 それまで冷えた夫婦関係を嘆いていたモーロの妻が夫を救おうと敢然と闘い始め、
 モーロを父と慕う内務大臣が、捜査の行き詰まりに心がどんどん蝕まれて行く様

は、胸を打ちます。

 ユーロコミュニズムなんて言葉を当時聞きかじって分かった気になっていましたが、その最前線はこんなに血まみれだったのだと言う事に慄然としました。

 それにしても、と毎度同じことを繰り返します。日本の映画は、なぜ現代史を実名の物語として描こうとしないのでしょう。次の戦争が終わってから、「あの頃は仕方なかったんだ」って言い訳するのでしょうか。

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La Strada

5.0誘拐事件を前後編で340分で6話構成の力作ですが、知らずに観るとミスリード的演出で混乱するかも😵‍💫

2024年9月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

50代以上のイタリヤ人なら多分大体の人が知っている、事件の実話を元に事実とフィクションを交えた作劇と構成になっており一話冒頭のからミスリード的な始まりがあり、事件を知っていたり感の良い方なら分かると思うが、誘拐後開放された?アルド・モード党首が病院のベッドで横になりながら、見舞いにきたジュリオ・アンドレオッティ首相を真っ直ぐ見つめる場面から物語はその前の過程を語りだすのだか、映画を最後まで観るとこの部分の見方が変化すると思う。
もしかすると同じ場面の最初に最後で演出的な違いがあるのかもしれないが、一回しかみてないので比較は出来ないですが…

一話目はアルド党首の誘拐までの生活と当時のイタリアの情勢が、赤い旅団の暗活と共に語られており、静かだか不穏な空気感とサスペンスフルな演出で引き込まれる。
そして誘拐時の襲撃場面は、迫力を出しつつ抑制の効いた演出で犯人側の焦りも伝わる見事な描写でありマルコ・ベロッキオ監督の力量がわかる。

この一話を見るとアルド・モード党首の人となりが、さり気無く提示されており、大学での毅然とした姿や特に深夜に帰宅して目玉焼きとパンでひっそりと食事をする場面などにも、誠実さが見え魅力的でもある。

二話と三話から別の視点と人物から語りをしていて特に内務大臣の振る舞いや行動は、コッポラ監督の映画『カンバセーション 盗聴』を想起させる。

アルド党首と親友でもあるローマ法王パウロ6世の見る幻覚に近い妄想も冒頭のミスリード的な絵図と演出がここでも入ってきて結構のみこみ辛い部分もあるが、前編はやはり一話目が頭抜けて良かった。

後編の4・5・6話はそれぞれ赤い旅団の側とアルド党首の奥さんの視点から物語が語られており、テロリストでもある赤い旅団のメインでもある男女二人の行動と顛末は、なかなかにシビアで、活動に参加した女性アドリアーナは、映画の『ワイルドバンチ』でのヒロイックで破滅的殉死と解釈して自分に見立てて嘯く男の相棒に自分は「子供や家族を捨て中絶までして戦っているのになんだ!」怒る場面も今も多くある男達の身勝手への問い掛けであろう。

『ワイルドバンチ』1969年の作品なので、1978年頃が舞台のイタリアで上映されているのは偶然ではなく、アウトローでもあるワイルドバンチが、体制側であるマパッチ将軍を撃ち殺す場面を引用していると思うが、もう一つ引用的に名前が上がる映画があり、一話でアルド・モード党首が呟く作品が、フランチェスコ・ロージ監督『エボリ』(1979年イタリア)で、原作は政治犯で反ファシズムのコミュニスト作家レービの体験を元にした映画で、未見ですが内容からしてキリスト的な生き様も含めアルド・モード党首の思想の現れてとして提示される。後はイタリアの闇とも対峙してきた先人でも映画人フランチェスコ・ロージ監督へのリスペクトも兼ねているのだろう。

イタリアといえば食のイメージもあると思いますが、アルド・モード党首が自宅(結構質素)で食事をとる以外の食事場面でもその人の立場が、浮き彫りになる構成は上手いと思う。(法王は親友を立場を思い、ほぼ食事をせず、同じ政党の仲間である首相はジェラートを我慢する程度で済ますとか、アルド・モード党首も監禁先で食をしないなど)

全体を通して事件の事やイタリアの政治体制を知っている方が理解しやすいと思うが、ゼロから見て後でパンフレットなど調べるのも一つの力作だと思う。時間的に厳しそうだと思う方は配信など待って一話ずつ見るのも良いと思う。(ちなみに自分はパンフ買ってません)
個人的にツボなのは、軍や公安の護衛達がサッカーで盛り上がる場面や赤い旅団の射撃訓練が、チンプなプロパガンダ映画みたいな描写だったりとか、70年代後半が舞台なので当時の車や衣装などの小道具も違和感なく配置してあり、それを補うCGの使い方も巧い。

役者も政治家の面構えと赤い旅団側の70年代感もイイ顔を揃えており、変にイケメンなどに見せずにリアルで素晴らしい。(この辺は80年代末の香港映画や今の韓国映画と同じかな🤔)

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ミラーズ

5.0長いと覚悟してたけど、長さを感じさせず、物語は行ったり来たりはした...

2024年9月9日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

長いと覚悟してたけど、長さを感じさせず、物語は行ったり来たりはしたけど、複層的な展開がドラマ性を増すので、よかった。俳優が皆すごい。歴史的な事件だけに惹かれるし、当時のイタリアの社会が描かれていて、今池まで見たどのイタリア映画よりもイタリアに深く触れた気がした。特にカトリックとキリスト教民主主義同盟の存在、さらに教皇。モーラ夫人はすでに夫との仲は破綻していたけれど、夫を救うために立ち上がりテキパキと行動する姿は凛々しかった。また、死刑の前の告解のシーンが印象的だった。これも実にキリスト教文化っぽい。ファシストの生き残りの軍部たちの愚かさ、アメリカ人のコンサルタントのそれっぽさ、もともとパラノイアっぽい内務大臣の傍受中毒など、人間の描き方か良かった。

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えみり

4.0フィクションと史実の融合と峻別、そして夢

2024年8月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

難しい

まるで知らなかった事件についての映画を見るのは難しい。当時のイタリアの政治の空気、冷戦下の世界、アメリカ合衆国とソビエト連邦の綱引き、NATOの中のイタリアの立ち位置、そしてカトリックに代表されるイタリアにおけるキリスト教の重みが分からないから関連資料を読んだとしてもうまく想像できない。ただ、戦後「西側」諸国の中で共産党が勢いを得ていたおそらく唯一の国がイタリアであることとイタリアは当時すでに死刑を廃止していた。その意味は大きいと思った。死刑を廃止した国で政治家が極左グループに殺されていいのか?生きたいと思う自分は許されないのか?党の人間誰一人信用しない、名前まで挙げて憎いと、穏和に描かれていたモーロに言わせ、「生きて戻った」モーロには「赤い旅団」への感謝の意を述べさせるベロッキオ監督。ベロッキオ監督はタランティーノ監督なんだとも思った。歴史を眺めこうだったらよかったのに、こうならいいのに・・・、想像で映画をたっぷり膨らませて観客に謎かけしながら夢を紡ぐ、映画を知り尽くしている二人。

モーロ夫人のブイ、教皇のセルヴィッロ、モーロのジフーニ、3名の名優がこの映画に華と強いアピール力を与えた。そして政治家達の海千山千の面構え!モーロ夫人は全てわかっていた。その貫禄と政治家達への対応ぶりが堂にいってかっこよかった。

予告編と本編の前編で流れるスペイン語の歌詞付きのリズミカルな曲が不思議な雰囲気を醸し出していた。胡散臭い人が出てきたり、役者は真面目な顔なのになぜか可笑しい場面もあって重いだけでない、耐えられる軽さもある映画だった。時間軸動かしや複数の視点からの描写や語りが好きなせいか上映時間の長さは意外に苦にならなかった。難しいが面白い映画だった。

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talisman

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