AIR エア : 映画評論・批評
2023年4月11日更新
2023年4月7日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
エア・ジョーダンで起死回生の一発!ナイキ大ブレイクの裏側を描く
実在の企業の業績やそこで働く人物の行動に基づく、企業案件映画です。これ見ながら「フォードvsフェラーリ」「マネーボール」なんかを思い出していました。
映画に向き合う前提として、私たちは、ナイキがエア・ジョーダンで大成功を収めたことを既に知っています。なので、オチは大体想像がつくわけです。今回、監督のベン・アフレックが「何をもって見どころにしたのか?」というポイントで鑑賞に臨みました。
当初、ナイキの社員で主人公であるソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)のミッションは、「新人NBA選手複数名と、ナイキのシューズを履いてもらう独占契約を結ぶ」というものでした。アディダスやコンバースの2大ライバルに遅れを取っているナイキのバスケットシューズ部門は、限られたバジェットでライバルを凌駕する成果を上げなくてはなりません。要するに、無理筋のミッションです。
ソニー・ヴァッカロは、予算的に複数名との契約を結ぶよりは、大型新人を一本釣りする方が効率的で成果も上がると考えて、上司にマイケル・ジョーダンひとりと契約したいと進言します。
しかし、「ジョーダンは、ナイキとは交渉する気はない」という噂が聞こえてきます。ジョーダン側の本命はアディダスなんだと。
ここが、「何をもって見どころにしたのか?」の解答です。自分たちに興味を持っていない相手に、いかにしてこちらと向き合ってもらうか? 契約以前の部分ですね。
ここから先は、代理店マンなんかが見たら「分かる!だけど諦めたら終わり」「禁じ手だけど、オレもそうする」「いやいや、クビを賭けてまでそれはできない」って感じの共感&熟考ポイントの連打で楽しくなります。ジョーダン家とのプレゼンテーション本番の日の「やっちまった感」もとても楽しい。
意外だったのは、ジョーダン家側がナイキに出した条件です。ここに、この映画のユニークな存在意義があると言っていいでしょう。その後のアスリートとブランドとの契約条項における定石を、最初に成立させた事例を私たちは目撃するのです。
個人的にはアラン・パーソンズ・プロジェクトの「アイ・イン・ザ・スカイ」が流れるシークエンスがツボでした。正確には「アイ・イン・ザ・スカイ」のイントロに相当する「シリウス」という曲。
これは、NBAの試合の冒頭に流れるシカゴ・ブルズのメンバー紹介のテーマ曲でした。「さあ、これからマイケル・ジョーダン・ショーが始まるぞ」という開幕のファンファーレが「アイ・イン・ザ・スカイ」なんですよ。1990~91年のシーズンからスリーピート(3連覇)を成し遂げたジョーダンの全盛期、BS放送にかぶりついて、NBAに夢中になっていた時代を思い出しました。
(駒井尚文)