夜明けのすべてのレビュー・感想・評価
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苦しみへの援助ではなく、ただ隣にいるということ
私自身も生理前になると気分がどーんと落ち込んで一人になりたかったり、人に不貞腐れた態度をとってしまうことがある。なので、そうした悲しみやイライラを引き起こすPMSには理解があるつもりだった。でも、藤沢さんのように、もはやイライラを越えて自分でコントロールできないほど怒り狂ったりする症状もあるのだと驚いた。
パニック障害についても理解していたつもりだったけど、発症のきっかけは人それぞれで、発作が起こるタイミングも人それぞれなのだと思った。劇中、山添君が会社の給湯室で発作を起こしてしまう場面がある。あれは何が原因だったのだろうか。電球が切れてチカチカしたことだろうか。「山添くんはパニック障害」という意識で観ていたため、忘れ物を取りに深夜の会社に行くシーンや、電車の通る線路横の道を自転車で走るシーンには内心心配しながら観ていた。発作が起こったらどうしよう…と。
PMSもパニック障害も、外見からその人がその病気を持っていることはわからない。私の身近にも、街中ですれ違う人の中にも、もしかしたらそういう人がいるかもしれないのに、思いやりができてないことがあるな、と我を省みた。
この作品では、思いやりが「わかりやすい助ける行為」で描かれるのではなく、「ただ隣にいること」として表れていた。苦しみを抱えている人が身近にいるとき、変に気を遣ったり助けたいと思ってしまうことがあるが、こんな風にいつも通りただ隣にいて会話したり日常を一緒に過ごすことだけでいいのだと思えた。
疲れた時に観るととても心に沁みる映画だ。主演のお二人以外の方たちもとても温かく優しい人柄を演じている。何より時間がゆっくり流れている感じがして、観ながらもこちら側に考える余白を与えてくれる。藤澤さんのお母さんはなぜデイサービスに通ってるのだろうかとか、二人が会社帰りに食べていた中華まんの中身はなんだろうなとか、藤澤さんは次の職場でどんな風に働いてるのかなとか。陽だまりの暖かさを感じさせるエンドロールもとてもよかった。
それでも生きていく
雨の中、ずぶ濡れになっている藤沢さんのシーン。オープニングから引き込まれた。
あいだあいだに挟まれる夜の街の光も素敵。
山添くんが電車に乗れず倒れ込む後ろ姿がたまらず、藤沢さんの柔らかい雰囲気とイライラした時の狂気めいた落差の表現。
二人とも自然で映画を見ていることを忘れてしまう。脇を固める役者さんも本当に存在する人たちみたい。
変に恋愛に発展するような展開でないのもよかったし、山添くんと恋人の別れのシーンもバッサリカットしているのもよかった。
「互いに助け合うこと」の大切さ
共にメンタル面での問題を抱える若い男女の物語だが、変にラブ・ストーリーのようなベタベタした展開にはならず、かといって「お互いに傷を舐め合う」みたいなジメジメした話にもならないところには好感が持てる。
特別な感情はないものの、相手を大切に思っている2人の距離間が絶妙で、とても心地よく感じられるのである。
そこで描かれているのは、「人を助けることによって、自分も救われる」という関係性で、人間というものが、助け合い、支え合う生き物なのだということを、改めて思い知らされた。
ゆったりとした時間の中で、淡々とした日常が描かれるだけなのだが、冒頭の上白石萌音のモノローグや、序盤のテロップでの病状の説明、あるいは終盤の松村北斗のモノローグなどがアクセントになっていて、劇映画としての作り方の工夫も感じられる。
「夜明け」を迎えるプラネタリウムのナレーションによって、「希望」が感じられるラストになっているのも良かったと思う。
その一方で、途中、近親者を自殺で失ったらしい人達のサークルが出てきて、主人公たちが勤める会社の社長や元上司が、二度と自殺者を出したくないと思っていることは分かるのだが、かといって、主人公たちは、病気を苦にして自殺を考えている訳でもないので、そうしたエピソードが、どこかチグハグで中途半端に感じられてしまった。
また、PMSの藤沢さんが、母親の介護のために故郷に戻って行くエンディングにも疑問が残る。
世の中での「生きづらさ」を感じていた2人のうち、パニック障害の山添くんは、何とか自分の居場所を見つけることができたのだが、藤沢さんの方は、はたしてどうだったのだろうか?
じんわりと沁みる温かさ
悲しい場面もないし感動を誘われた訳でもないが、なぜかずっと泣きそうになりながら見ていた。PMSによって前の会社でうまくいかず、今の会社でもイライラが抑えられないことのある藤沢さん、パニック障害で普通の人が普通にできることができない山添くん。相手のことを知らなければ「なんだコイツ」と思ってしまうようなことをお互いしていた2人が、相手のことを知って関わるうちに、男女だろうと苦手な人相手だろうと、助け合うことはできるということを認識する。最近はよく男女間のいがみ合いや気に入らない人間には何をしてもいいだろうというような人たちが多いような気がしていたので、この映画の中の人たちの優しさがそういったいざこざに疲弊していた心に沁みた。エンドロールも秀逸で、主題歌が流れて以上映画でした、というような感じではなく、日常がずっと続いていくような終わり方がこの映画のテーマに非常にマッチしているように感じた。
主演二人をはじめ、脇を固める俳優陣も皆よかった。
なにか大きな事件が起こるわけでも、ありえないような設定がある訳でもない。私たちの日常と地続きの世界で、藤沢さんと山添くんが生きている。現代社会に生きている人々にこそ見て欲しい映画だと思える作品だった。見られてよかった。
生きることを少し楽に
#夜明けのすべて出会えてよかった
プレミアムナイトにご招待いただき、一足先に鑑賞。
パニック障害の山添くんとPMSの藤沢さんの2人が抱える葛藤や生きにくさを通して、今を生きる私たち1人1人が社会に感じる息苦しさや歯痒さを救ってくれるような作品でした。人は大小さまざまな悩みを持っていると思いますが、鑑賞後は「生きる」を少し楽にしてくれたそんな気がしました。
山添くんの藤沢さんのことをはじめは苦手意識を持っていましたが、最後には打ち解け理解していくその姿が素敵でした。人は他人を第一印象や外見で判断しがちですが、向き合うことで良き理解者を見つけていく山添くんを通して、難しいことではありますが、とても大切なことだと感じ、自分の偏見や思い込みを少なくして人と関わっていきたいなと思った瞬間でした。
2月9日公開後ももう一度観に行きたいと思います。
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