「静かで綺麗な映画。たらればって別に悪いことじゃないのでは?」パスト ライブス 再会 郁さんの映画レビュー(感想・評価)
静かで綺麗な映画。たらればって別に悪いことじゃないのでは?
自分の中で映画ブームが来ていますが、いかんせん初心者なので、まずは今年のアカデミー作品賞ノミネート作品から順に見ています。パストライブスは、いろんなメディアでオススメされていて気になっています。
会話劇とそのストーリー性が特筆される作品だと思いますが、個人的には映像美を強く感じました。
2人が再会するニューヨークは、雨で始まります。そのシーンが美しいです。
2023年に渋谷で写真展が開催されていたニューヨークの写真家ソールライターの作品に似ていると感じました。ニューヨーク、雨、赤という個別の要素が勝手に繋がっただけですが、自分の記憶と映画がリンクするというような楽しみ方ができたのも嬉しかったです。
登場人物は、主人公のノラ、初恋相手のヘソン、夫のアーサーの3人で構成されています。そして会話は、3人中の2人で構成されます。
3人が使う言葉の違いが、ストーリーをより多層的にしていると思いました。
ノラとヘソンは、韓国語。ノラとアーサーは、英語。ヘソンとアーサーは、カタコトの韓国語と英語。
この言語の違いは、時間軸の差も表しているようでした。
ノラとヘソンの韓国語は、ノラにとってはifの世界で、リアルではありません。韓国語の世界には、ヘソンとの幼い頃の楽しい思い出がいっぱいあるし、寝言は韓国語になるくらいかなりパーソナルな世界です。ただし、その世界は過去です。
ヘソンにとっての韓国語は、時間軸は連続していて過去から現在に繋がっていて、ノラとの進展も望むための言葉で、時間軸は現在です。アーサーにとっては入れない遠い世界で、寂しさを感じる言語です。
逆に英語は、ノラにとって現実世界での言葉で、成し遂げたいことやりたいこと、そしてライターとして生きる自分とそのパートナーであるアーサーとの話す言葉です。アーサーにとては、英語で喋るノラを見ている。ヘソンは、英語を喋るノラは、少し遠い人に感じていたように思います。
劇中でノラがどの言葉で喋るかで、どの世界に、どの気持ちになるかが変わっているようで面白かったです。多くのタラレバが出てきますが、どれも後悔とか後ろ向きな話じゃなくて、それぞれの世界でみんなの幸せが残り続けているように感じました。
でもやっぱり切なくて、最後アーサーが軒先で待っているところ、そこに抱き止められるノラの涙は、ヘソンに戻りたい訳ではない、けどこれが最後かもと思う悲しさが溢れているようでした。
派手さは全くないですが、静かに、美しく、じんわり広がる映画でした。