「とても素敵な映画だった。」オットーという男 まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
とても素敵な映画だった。
日本人には「建前と本音」がある。建前は、相手を傷つけない為の優しさでもあるが、そこには自分が悪者になりたくないとか嫌われたくないという気持ちも潜んでいる。周りに迷惑をかけないように行動するのは、特に日本において美徳でありマナーでもあるが、それは時に窮屈で、空気を読めない奴はただただ白い目で見られておいてけぼり。そういう冷たい他人行儀さも含んでいる。でもそれって…もしかして単なるコミュニケーション下手なんじゃない?そう思わせる映画が本作、「オットーという男」である。
オットーは不愛想で面倒くさい、一見感じの悪い爺さんだ。しかし全員に対して等しく感じが悪い。それはつまりピュアで正直な、本当はすごく「いい人」なのだ。引越して来た騒々しい婦人マリソルがメキシコ人でも、ポンコツな旦那がカリフォルニア大学の修士だと知っても、ジェンダーでも何でも態度はずっと変わらない。猫にまで等しく無愛想だ。
そんな彼だから、いや多分どんな人も、他人に心を開くのは容易ではない。亡くなった最愛の奥さんのこと、バス事故のこと、自殺しようとしていたこと。誰でも孤独を感じたり悩んでいたり、心の奥底にしまって大切にしていることを人に打ち明けるには相応の勇気が要る。誰にでも話せるわけじゃない。そこには、お互いの関係性を築くささやかな積み重ねが必要だ。手作りの料理をお裾分けしたり、困った時は甘えたり頼ったり、不満や怒りも伝えつつ、時にはケンカもして、根底には常に相手に対する関心と思いやり、リスペクトがある。諸事情の違う海外と日本を比べても意味が無いと言われるかもしれないが、彼らの人生や人付き合いには学ぶべきところが非常に多かった。「他人に迷惑をかけるな」という教えは美しいが、オットーには、周囲に煙たがられても、自分を主張したり、自分がこうと思う信念を曲げない強さを感じた。マリソルに運転を教えるシーンは特に感動した。
幸せな人生だったと思う。
こんなに奥さんを愛して、まじめに仕事に取り組んで技術者として役目を全うして、ちゃんと人生を苦しんで、乗り越えて、人々の慎ましい温かい営みの中で死を迎えることができた。
私も何となく薄ぼんやりと老後のことを考える。作中で、隣人でもある友達が住処を追い出されそうになるのを返り討ちにするところは見ていてスカッとしたし、歳をとっても肩身を狭くして小さく生きなくてもいいよねと思えた。個人的に一番好きなのは、身辺整理を始めたのか…としんみり鑑賞してたのにオットーが新車を購入したシーンかな笑 地味だけどとても素敵な作品だった。