「オルガは今なお存在する」私、オルガ・ヘプナロヴァー regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
オルガは今なお存在する
鬱病に悩まされ、父親からはDV、母親からは事務的な愛情をそれぞれ受けてきたオルガ・ヘプナロヴァーは、居場所を求めて自立し、自分が同性愛者である事を自覚する。しかし、旧ソ連の傀儡的存在だったチェコスロバキアで暮らす事は容易ではない。
もし彼女がチェコ以外の国で生まれていたら、もし彼女が生まれたのが社会的弱者への施しが70年代よりも手厚かった(完璧とはいえないものの)現代だったら、もし彼女の事を心から理解してくれる人物が1人でもいたら…そんな様々な“たられば”が重なっていたら、彼女はトラックで町の群衆に突っ込む事はしなかったのかもしれない。
華奢で猫背体型のオルガを演じたミハリナ・オルシャンスカは、そのヘアスタイルもあってか『レオン』の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)を彷彿とさせる。マチルダはレオンのような暗殺者になろうとするが、オルガは暗殺ではなく大量殺人への準備を進めていく。
「殺人をしたのは、今後このような事が起こらないようにするため」、そう言ってオルガは絞首刑に処された。しかし現実ではトラックの代わりに銃や刃物、毒ガスを使った無差別大量殺人が繰り返されている。彼女は今でも存在している。
劇伴を一切使わずにドキュメンタリータッチで捉える構成は、近作の『母の聖戦』同様、観客を主人公と同化させていく。つまりこれは、事情は十人十色あれど、人は誰しもオルガになる素養を持っているという事実を体感させる狙いもあるのだろう。
本作を日本配給したクレプスキュール・フィルムは、配給第1作『WANDA/ワンダ』(この作品も劇伴未使用)といい次作『ノベンバー』といい、観客に“問い”を与える作品ばかり。実に骨があるというかクセがありすぎる。
>Mさん
誤った道を進まないよう指針してくれる理解者の存在も大きいかもしれません。
マチルダは暗殺者になるという思いをレオンに止められますが、オルガには大量殺人願望を止めてくれる者がいなかった。その違いかもしれません。