「私たちはどう生きていけばいいのか」君たちはどう生きるか ゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
私たちはどう生きていけばいいのか
わたくし、34歳主婦。
初めてひとりで映画館を訪れ「もののけ姫」のかっこよさに痺れて2回足を運んだのは小学校2年生。
アシタカの生きる美学に惚れ、アシタカのように生きたいと願い、早26年が経った。
30も半ばに差し掛かると、アシタカや他のジブリの主人公のように真っ直ぐに生きることがいかに難しいことかを痛感。
人を傷つけ、自分を傷つけ、長いものに巻かれて、先を読めてもいないのに読んだ気になり、自分を納得させて埃まみれになって生きてきた34年。
ジブリ作品を観るたびに「あぁ、人はこう生きるとかっこいいのか」と人生の美学を突きつけられ、自分の中の軸を再確認した気持ちになり、清々しい気持ちになる。
そんな数々の名作を生み出した宮崎駿監督も御年82歳。
引退の文字をチラつかせつつもここまできてくれた。
しかし、監督の年齢を考えると、これが本当に最期の作品になってもおかしくない。
ファンも監督本人もその事を重々承知の上、監督はこの作品を世に送り出してくれた。
作品を通じて宮崎駿監督とどんな対話ができるのか。
何の前情報もない作品という新鮮さもあり、上映前には期待と不安が膨らむ。
「私たちは一体どう生きていけばいいのか」
これから新しいジブリ作品が生み出されない世界が来るとしたら、私達は何を美学に、哲学にして生きていけばいいのだろう。
不安に満ちた世界で、生きていくことができるのだろうか。
34歳になり、母になった私は、この可愛い2人の子供を、この過酷な世界の中で育てていくことができるのだろうか。
そんな漠然とした不安に監督は答えを導き出してくれるのだろうか。
「穢れのない心で美しい世界を創りなさい」
まるで、イエス・キリストが迷える民衆に説いたような、真っ直ぐなメッセージ。
でも、どうしてだろう、とても身体に染み渡る。
世の中は「墓石でバランスを取っている」かのように、沢山の犠牲の上に成り立ち、とてもシンプルで脆くて壊れやすい。
それでも次の世代を生きる私たちに、より良い世界を築くように努力してほしいという、
とても普遍的で単純なようで、とてつもなく重いメッセージ。
眞人のように石で自分の頭を殴り、人を欺き、穢れてしまったと感じる大人も沢山いるのだろう。
それでもいい。そんな自分を認めつつも、また良い世界を創る歩みを辞めないで欲しい。
ジブリの人生哲学に背き、酸いも甘いも嚙み分けながらここまで来てしまった自分を恥じている私は、
宮崎駿監督の優しさで包み込まれ、背中を押された気持ちになった。
きっとこれから生きていく中でも、
日々の生活や邪心、欲で前が見えなくなって、
目の前のことで精一杯な私たちは、
自分の命が生かされている存在であるという事を忘れてしまう。
愛が欲しい、モノが欲しい、お金が欲しい。
欲しいものばかりで、世の中を、目の前の人を、よりよくすることよりも、「自分の欲」を優先させることしか見えなくなってしまう。
何事も便利になり、自分の手を汚して食べ物を手に入れる事はしなくなり、人が手に入れたものに群がりおこぼれを貰う。
自分の足で生きている実感が持ちづらく、まるで生きているのか死んでいるのかも分からなくなるよう。
それは現代の人々の抱える病でもあり、
それをアオサギが案内した世界では、
「この世界のものは幻ばかりで、ほとんどの人が死んでいる」と。
あれは今の社会を反映しているのかもしれない。
昔は目の保養であった動物たちも、時代や場所が変われば人間を襲うようになり、外来種扱いされ、忌み嫌われる。
でも、その世界を創り出したのもまた人間の業である…
「それでも元の世界に戻るのか、じきに世界は炎に包まれるぞ」
「それでもいい。友達を作る。アオサギのような。」
この地球が、世界が、どんな方向に行くかは分からない。
それでも、強く、逞しく、前向きに進んで生きていくしかない。
そうすれば、きっとこの世の終わりだって清々しく迎えられるのではないかとすら思えてくるような、
宮崎駿監督の、温かい愛に包まれたメッセージだった。
こんばんは。
すてきなレビューでした。
混沌とした世の中、ひとが定める価値もいろいろ。
でもかわらない大切なものを見失わずいたいですね。
そんなことを思う鑑賞後でした。
すみません。
こちらのサイトにはゆきさんが2名いらっしゃるようです。
私のコメントは、もう一人のゆきさんに対するものでした。
ただし、コメントは、こちらのレビューに対するものなので、
読んで頂ければ幸いです。
失礼しました。
ゆきさん、難関を突破しましたね。
ゆきさんの視点で捉えた宮崎監督のメッセージですね。
我々観客が本作から受け取るメッセージは千差万別だと思います。
ゆきさんは、温かい愛に包まれたメッセージを感じたんですね。
私は、宮崎監督の突き放したような厳しい問題提起、叱咤激励、エールを感じました。現代社会への強い危機感を感じました。
後は行動力でしょうか。
本作は、眞人がどう生きるかを定めた、決めた、決断したところで終わります。それは、戦後の復興という眞人達が行動した証があるので、敢えて行動の部分は映像化しなかったと推察します。
丁寧に表現すれば、本作の題名は、君たちはどう生きるかを定めて、それを実現するためにどう行動するのかというのが、宮崎監督からの強い問題提起だと思います。
では、また共感作で。
ー以上ー