劇場公開日 2023年7月14日

「君たち(観客たち)はどう生きるか?つまり、早く私の作品なんて卒業しなさいという事」君たちはどう生きるか 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0君たち(観客たち)はどう生きるか?つまり、早く私の作品なんて卒業しなさいという事

2023年7月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

君たち(観客たち)はどう生きるか?つまり、早く私の作品なんて卒業しなさいという事

子どもの頃、強烈な内容の映画を見てその日の夜にその映画の内容が若干改変された変な夢を見た時みたいな、とにかくそんな内容だった・・・・・

まず作画は流石ジブリの圧巻クオリティ。これは保証します!新海誠監督の透明感や進撃の巨人のような派手さには欠けるも(そもそもアクションでは無いので)、ワンシーンワンシーンの”情報量の厚さ”、そして次から次へと新鮮で楽しませてくれる動作の数々やキャラクターの数々は熟成されたジブリの唯一無二な領域と言えるでしょう。

しかし、これは皆さん一致の意見でしょうが『わけがわからない』。

舞台は戦時中ニッポンで空襲?の火事で母を亡くした少年が主人公。そこから疎開先での微妙な人間関係とか不思議な塔の存在だとか、この辺までついて行けてた。

唯一の絵的な情報だったアオサギも早めに登場し、「ほら見るからに重要そうなアオサギさんですよ!ほらほら!」と言わんがばかりにチラチラと登場回数を重ねて煽られていた頃は気分最高だった。

昨今流行りのアニメのどこか十代青春的なワクワク感とは違う、純粋な冒険活劇的ワクワク感。コレだよコレ忘れていたよアニメの王ジブリのこのワクワク感!

なんて盛り上がれたのは最初の一時間まで。

その後はカオスな世界観が繰り広げられ、主に鳥がメインの異世界でのお話が展開されていく。上記の通りこの時点で尺が半分ほど使われており、ようやくの異世界冒険活劇の始まりなのだ(笑)。そして肝心の展開も千と千尋のような驚きと成長に満ちたモノでは無く、淡々と進んでいく。

剣や血を匂わせる狂気な描写は宮崎作品初期を思わせるけど、かと言ってそこまでアクションに特化している訳でもない。

冒険活劇、家族愛的なしんみり系、そのどちらにも振り切れないままボワ~っとした描写が続き、実母なんだが義母なんだか分からないお母さん(後に義母と判明)を助けにいく。ここ紛らわしいんですが、最初に溶けちゃったのが本物かあさんで、産屋に居るのは義母かあさんなんですよね。

で、最後も無事帰ってその後東京に帰る事も示唆されてあっさり終了。

まさかまさかの大博打で駄目な方だったとは~~~とエンドロール中に頭を抱えてしまいました(笑)。

まずどこに感情を置けば良いのか分からないんです。戦時中が舞台なのであの頃のニッポン人として観れば良い・・という訳でもなく本筋はとんでも異世界ですし。なら家族愛的な部分も、どちらかと言うとカオスな鳥たちの世界が強烈過ぎて霞む。最後父親や義母との再会もあんまりだったしね。

でももっと深く考えると、本作はただの興行的な作品を域を超えた、宮崎駿というジブリ作品を生み出してきた人物の最後の作品だからこそのメッセージ性が籠められた作品だったのかもしれません。

そもそもタイトルの【君たちはどう生きるか】これは作中では本が少し登場した程度で同名のセリフが流れるわけでもなく、本が少し関係している以上の意味が無いように思えます。

しかし、このタイトルが実は本を参考にしてますよというカモフラージュで、本当は観客、それ以上に宮崎駿の熱心なファン達に向けられていたのだとしたら!!???

アニメなんていつまで観てんの。これは現実じゃないよ。ただの娯楽、嘘なの。

もう自分の人生、

現実を見よう?

君たちはどう生きていくの?

これから。

だから【君たちはどう生きるか】

そんなメタ的な最後のメッセージが籠められていた可能性も有ると考えたら、なんだか凄まじい作品に思えてきました(笑)。

だからこその意味不明な展開の数々で、ある意味意図的に観客達を幻滅させる。意図的なクソ映画(言っちゃった)。観客を、ファンを目覚めさせる。

最初は宮崎駿の人生をなぞり、戦闘機とか強気少女とか宮ちゃんの好きな要素を詰め込んだ最高のオ7ニー映画に仕上げ、そのフィナーレを支離滅裂な展開にして観客にとどめを刺す。

そんな”宮崎駿卒業映画”が、この【君たちはどう生きるか】だったのです!!!!!!

でも内容がクソなのに、流石はジブリの圧倒的な作画力とキャラクター達の生きている迫力が伝わってくる演技と描写が、やっぱり情報量が厚くてな~んか心に残っちゃうんですよね。支離滅裂だったのに何か深く残っている、不思議な感覚なんです。かあちゃんがどっちがどっちか分かんなくなる変な幻覚みたいな描写ですとか、おばあちゃん達の人形ですとか、なんかこっちがフワフワしてくるような子どもの頃の変な勘違いを、脳みその誤作動を再現されてるような描写は流石ジブリとしか言いようがない(これ伝わってるかな)。

宮崎駿のジブリ作品最後の作品という補正以上に、何か人の心に残す不思議なサブリミナル効果のようなものを発揮している、後の世になってから評価がされそうな作品でした。

でも敢えて言おう。カスであると。

真中合歓