「脚本の出来、シンプルに悪いのでは??」怪物 ぽんすけさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本の出来、シンプルに悪いのでは??
観終わってまずの感想は、これでカンヌ脚本賞!??脚本の出来はかなり悪いのでは??というもの。
三幕構成で一幕ずつそれぞれの視点で見せる、「真相はそれほど単純ではない」形式とでもいうような、よくある形なんだけど、これが非常に雑に感じられた。
そもそもこの形式で魅力的な映画にするなら、人物自体の根本的なキャラクター性は一貫していないといけないし、伏線も張り放題なので意味を持たせる必要があると思う。
ところが……
◇主要人物である瑛太扮する先生が人格レベルで変わっている
1幕目と2幕目でいくらなんでも人として違いすぎ。視点が変われば人への見方も変わるというレベルじゃない。
特にこれ見よがしに高畑充希に「飴でも舐めて、テキトーに振る舞えばいい」みたいなことを言われるシーンが挟まれているけど、絶対に謝罪の場で飴舐めるような奴じゃないじゃん!
1幕目ではサイコパス野郎かと思って、ある種ワクワクしていたのに、超普通の人。それに対して受ける仕打ちが酷すぎて、ただただ可哀想すぎるよ。
特に作劇的に面白い人物でもないし、普通の人が超つらい境遇に貶められて、しかもなんのフォローもない話って、これは何を見せたい伝えたい話なんだ!?
◇ミスリードなのか意図があるのか、よくわからない伏線ばかり
・ちょいちょい出てくる眼光鋭めで、猫について告げ口する女の子は何がしたかった?みなとくんが好きだった?作中で語られなすぎて意味不明。
あと、猫については、あの状況で女の子はどうやって知れたの??
・よりくん、学習障害とか広い意味で発達障害を匂わすような描写が多々あったけど、その設定必要あった??結局、中村獅童の教育的虐待が向いているのは、ゲイであることだったんだよね?
・田中裕子全般、意味ありげなキャラクターとして出てくるけど、シンプルにどクズなだけだよね??なぜ深い思慮ある感じで吹奏楽を吹くシーンを??全然深くねーだろ!
樹木希林もそうだったけど、是枝作品の高齢女性が語れば深い、みたいなのが個人的に嫌い。
その他、
・金魚はなんか意味あったの?
・高畑充希は単なる貢がせ女だったの?
・なぜあそこまで安藤サクラは息子に話を聞かないの?
・ガールズバー云々の件全般、必要だった?
・小2のとき?の担任の先生はなんだったの?
・靴の踵を踏んでいたりネグレクトを受けてそうなのに、よりくんの家はなんで綺麗なの?別にネグレクトはされてないの?
とかいちいち気になって、なんか入り込めなかった。
怪物だーれだって、誰しもが怪物って見せたい映画なんだろうけど、
・いじめっ子
・中村獅童
・田中裕子
の描かれ方が雑すぎるうえにシンプルにわかりやすくクソだから、いやいや怪物はこいつだよ!ってなります(次点で安藤サクラ)。
そのくらい浅い見方を許す程度には、ディテールの描き方が雑。いじめっ子なんか、昭和ファンタジーの描写みたいだよ。
あと、坂元脚本✖️是枝監督のそれぞれの良さが微妙に噛み合ってない気がしたのが、子ども2人の年齢設定。妙に10歳程度の子にしては、悩み方や発言が大人びていて、是枝さん最大の武器?である子どもの自然さが本作では損なわれている気がしました。
そもそも社会派を気取りたいのか?賞レース的に狙ってなのか?ゲイを主テーマにして案の定?クイア賞も受賞していますが、それほどそこに真摯な想いを持った作品には感じられませんでした。
観終わってから是枝さんの発言が一部で炎上していたことを知りましたが、日本映画でももっと誠実に取り上げている作品はありますよ。『彼女が好きなものは』とか素晴らしかったもんね。
とはいえ、観て損したと思うような駄作映画ではないですし、船場吉兆ギャグかましていた1幕までは面白かったです。
この映画はいろんなテーマを盛り込みすぎてゴチャゴチャになっちゃっていましたが、もしそのタイトルのテーマに惹かれる方がいたら、吉田恵輔監督の『空白』を激推しします。
吉田恵輔監督は、よく男性の下心は生々しく描きますね。エロがポルノの意味なら、あまりそういう描写はしません。
ただ、ルッキズム的な視点では、完全に悪意100%なので、見る人は選びます。
>トミーさん
ありがとうございます、なるほど。確かに安藤サクラさん演じる母親視点だから、(ある種)歪んで現実を捉えていた、というのはありそうですね。
ありそうというか、演出としてはそうだと思います。その描写が私にはちょっと行き過ぎて感じたのだと思います。
>maru21
吉田恵輔監督は、良い意味で監督本人に性根の意地悪さがあって、作品にも人間へのドライな視点があって、かつコメディ演出が得意なので、個人的にすごく好きです。
私も底意地悪い人間だからかもしれません笑。
私は是枝さんも坂元さんも嫌いではないのですが、実はあまりうまく噛み合わなかったのかなと。
完全な邪推としては、是枝さんは実はクィア的なテーマにさほど興味がなく、坂元さんは関心は高いけど、サスペンス要素も盛り込みたい脚本家としての性があり、微妙にズレがあったのかなと。
全体に是枝さん作品のなかでは、かなりカットのジャンプが激しくて、個々の人物描写の掘り下げが浅い印象を受けました。
また、基本的に是枝さんという人は、誰か個人を悪として描くのを避けたがる人だと思うのですが、今回は中途半端になっていた印象を受けました。
彼彼女も掛け値なしの悪人ではありません、みたいなフォロー描写が、本作についてはエクスキューズすぎて。
事前情報を入れずに観たのですが、あとで調べたら坂元さんが3時間超えの脚本を書かれたあとに、是枝さんが監督に決まって現状の脚本になったようです。
第一幕→第二幕と転がす展開上、ミスリードとしての演出を入れたかったのだと思いますし、時間を縮めるために無理が生じたのではと邪推します。
伏線回収のための描写の雑さもそのせいかと。
>トミーさん
コメントありがとうございます。神の目というのが幻視的なことか、俯瞰視点的なことか、いただいた文章だけだとわかりませんが、私の綴った意見はもっとチープな感想から来たものです。
感じていた違和感をしっかり解説していたただけました。保利先生、むしろ良い人なのに酷すぎますよね。
同じく空白は激推しですが、トラックに轢かれるシーンがトラウマで、二度と観たくはありません。。。
人格激変について感じた事ですが、意図はよく解りませんが「神の目」で見てるんじゃないのでは? 何なら当事者が見た自分自身の姿だったんじゃ? ただ混乱させられたのは確かです・・