VORTEX ヴォルテックス

劇場公開日:

VORTEX ヴォルテックス

解説

「アレックス」「CLIMAX クライマックス」などで知られるフランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督が、認知症の妻と心臓病の夫が過ごす人生最期の日々を、2画面分割映像による2つの視点から同時進行で描いた作品。「病」と「死」をテーマに、誰もが目を背けたくなる現実を冷徹なまなざしで映し出す。

心臓に持病を抱える映画評論家の夫と、認知症を患う元精神科医の妻。離れて暮らす息子はそんな両親のことを心配しながらも、金銭の援助を相談するため実家を訪れる。夫は日ごとに悪化していく妻の認知症に悩まされ、ついには日常生活にまで支障をきたすように。やがて、夫婦に人生最期の時が近づいてくる。

ホラー映画の名匠ダリオ・アルジェントが夫役で映画初主演を果たし、「ママと娼婦」などの名優フランソワーズ・ルブランが妻、「ファイナル・セット」のアレックス・ルッツが息子を演じた。

2021年製作/148分/PG12/フランス
原題または英題:Vortex
配給:シンカ
劇場公開日:2023年12月8日

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(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH INTERNATIONAL - LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM ARTEMIS PRODUCTIONS - SRAB FILMS - LES FILMS VELVET - KALLOUCHE CINÉMA Visa d’exploitation N° 155 193

映画レビュー

4.0ギャスパー・ノエ映画ならではの未曾有体験

2023年12月27日
PCから投稿

ギャスパー・ノエと聞くと身構えてしまうのは、かつて「カノン」で唐突に警戒信号が発令されたり(そういう映像演出だった)「VOID」では死後の魂が夜の街をさまよったりと、彼の映画ではやたらと未曾有の事態が突きつけられるからだろうか。だが今回の新作はシンプルでいて深淵。過激さを払拭した作りに驚かされ、そこから伝わってくるものがこれまで以上に切実に、悲しく、ヒリヒリと身と心を浸していく様に言葉を失った。老夫婦は冒頭で、それぞれの場所から窓を開け放ち、笑顔で挨拶を交わす。そこからスプリットスクリーンにて紡がれていく二者各々の日常と動線。その姿をじっと見つめ続けるからこそ、我々には、本人の意識と行動が恐ろしく乖離し、夫婦の感情が噛み合わなくなっていく流れが手に取るようにわかる。よくある老いを描いた映画とも一味違う。ノエにしか描き得ない、人間の生き様を突きつけ、考えさせられる時間と空間がそこにはあった。

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牛津厚信

4.0映画=夢=人生の比喩はある種の救い

2023年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

本作については当サイトの新作映画評論枠に寄稿したので、ここでは補足的なことを記しておきたい。

評論では字数の都合で触れられなかったが、本作はたびたび夢に言及している。ダリオ・アルジェントが演じる映画評論家は、映画と夢についての本を書いていると友人に明かす。執筆途中の原稿は「psyche(魂)」と題されている。エドガー・アラン・ポーの詩「夢の中の夢(A Dream Within A Dream)」を著書で引用したいと言う。映画館の雰囲気は夢を見るのに似ている、とも。闇があり、周りから切り離されて、ベッドと同じだと。「夢は短く、夢の中の夢はさらに短い」という言葉も語られる。

人の一生は夢のように、あるいは映画のように儚(はかな)いもの。その考え自体はさして独創的というわけではなく、これまでにも似たような言葉はたびたび語られてきたが、人生をそのようにとらえることは、決して避けられない死に向き合うときある種の救いになるのではないかと思う。

ラスト近く、主をなくしたアパートメントの家具や雑多な品々が徐々に処分されていく過程が、スライドのように静止画の連続で示される。人生の思い出が染みついた品々が減っていくたび、家も生気を失っていくように見える。そして、夫婦が暮らしたアパートの建物を見下ろすように上昇し回転しながら薄れていくラストショットは、昇天する魂の視点だろうか。ここでの回転もひとつの“渦”ととらえるなら、きれいさっぱり何もなくなって消えていく渦は、評論でも言及したバスルームに出現する「美しくない渦」と対(つい)になっているとも考えられる。老いや病によって衰えていく日々の悪夢のような濁流と、死によって苦しみや悲しみや重力からも解放され地上を離れていく無の状態と。ギャスパー・ノエ監督なりの、映画によって死を相対化する試みのようにも感じた。

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高森 郁哉

3.5How Love Ends

2023年11月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

While one will miss Noe's extremities in this straightforward play on the process of a couples' aging away from the world, it's also hard to ignore the wish that he could direct every movie. The realism assisted by caliber actors and sets results in a more in-your-face experience than that of A Ghost Story or The Father. Noe throws honest nihilism, the absence of an afterlife suggested by the son.

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Dan Knighton

血しぶきは無いが観終えてゾワッ

2024年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 血しぶきコッテリ系が持ち味のギャスパー・ノエ監督が、ホラー映画の記念碑的作品『サスペリア』のダリオ・アルジェント監督を主演に迎えた映画というからさぞや恐ろしいお話かと思ったら全く予想に反した重い物語でした。

 認知症の老いた妻と心臓病を病み死に直面する夫を左右二つに割った画面で別々に映し続けるという斬新な構造です。左右二分割の映像表現は、ノエ監督の前作『ルクス・エテルナ』の一部でも用いられていたのですが、別画面の字幕を読むのに目があっち行ったりこっち来たりでとても疲れてしまいました。にもかかわらず、本作ではそれを徹底して殆ど全画面が二分割なのです。ところが、本作は台詞が少ない事もあって、二つの画面で進むお話が「長年連れ添っても結局は別々の人生」を表現するのに非常に効果的でした。

 作中では、「たとえ死んでもその人への共感は胸に残る」と言った言葉があるにもかかわらず、この作品自体は「人間は死んでしまったらそれで全ておしまい」という冷厳な事実を突き放すように示します。そのこと自体が、観終えてからゾワッと来るホラー映画の様でした。血しぶきはどこにも出て来ませんでした。 (2023/12月 鑑賞)

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La Strada

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