「震え、涙、笑い」ゴジラ-1.0 ツツジさんの映画レビュー(感想・評価)
震え、涙、笑い
映像・演出・演技(20)
映像に関してはまったくもって申し分ない。壮麗かつ壮大なゴジラの姿は見る者に恐怖か、はたまた神の如き姿を観測した感動か、いずれかによる震えを催させるだろう。熱戦放出時の背中の棘の動きも破滅へのカウントダウンを刻む爆弾の次元装置のようであり、恐怖を助長させていた。音楽も映像と完璧にマッチしており言うことは特にない。脇を飾る俳優の演技は主演が喰われないよう標準的であったが、主演の神木竜之介の演技は頭ひとつ抜けており、心理描写が強い本作品において親和性が高かったと言えるだろう。
文句なしの
20点
世界観(20)
戦後の復興期に現れた脅威としてのゴジラが描かれており、今まで見たゴジラの中で1番絶望感が強く、ラストは震えが止まらなかった。積み上げたものがその労苦を冷めやまぬ時期に壊させる世界観、時代設定を選んだ手腕は見事であるといえるだろう。
20点
脚本(20)
脚本は序盤の伏線が中盤、終盤で見事に回収される構造になっており、ラストの盛り上がりが段違いに強かった。ストーリーの緩急も申し分ない。しかし、序盤は主人公を取り巻く生活描写が若干長く感じた。(ラストの感動を作るには必要であったが。)
17点
キャラクター造形もしくは心理描写(20)
『シンゴジラ』の無駄を極限まで省いた作風と対照的に、本作品はキャラクターの心理描写が群を抜いており、映画のかなりの割合を主人公の内面を描くのに使用していた。戦争の恐怖、後悔、自己嫌悪から抜け出せない主人公の姿をくどいくらいに描くことによりラストの最終決戦がこれほど感動的に見えるのだろう。心理描写に割く以上仕方のないことだがキャラクター造形は標準的。
キャラクター心理描写優先評価で
15点
メッセージ性(20)
本作におけるゴジラとは何であろうか?
それはズバリ『戦争』である。戦争を生き残ってしまった本作の登場人物はゴジラと対決することにより、先の大戦の様子を追体験する。そして戦争と決別する。そして、明日を掴むため生きるための戦いを仕掛けるのである。
本作にはゴジラに戦争を思わせる意匠が施させている。先述した熱戦放出の時限爆弾のようなギミックや、ラストの復活を仄めかす描写はヒトがヒトである限り決して駆逐できない戦争の姿を示しているようだ。ラストの敬礼も終わりゆく戦争に対するものだと考えれば納得がいく。
この描写は観客に何らかのメッセージを伝えるのに十分であろう。
18点
総評
巧みな心理描写と映像の魅せ方、そして時代設定が見事に合わさり、筆者は恐怖の震えと感動の涙、そして傑作に出会えた喜びの笑いが同時に溢れ出る奇妙な感覚を覚えた。この感覚になったのはこの映画が初めてである。ぜひ映画館でこの感覚を味わって頂きたい。
(個人的なベストシーンは、銀座に現れたゴジラが熱戦を放ちヒロインの典子共々東京を破壊した場面での主人公の無力な咆哮である。大いなる存在に対する動物としてのヒトの反応を象徴的に表していると言えるだろう。これを見れただけで映画館に足を運んだ価値がありました。文句なしの傑作です。)
90点