劇場公開日 2023年11月3日

「幅広い人が楽しめる"邦画娯楽大作"に昇華したゴジラ作品にゴジ泣き」ゴジラ-1.0 きしめん太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0幅広い人が楽しめる"邦画娯楽大作"に昇華したゴジラ作品にゴジ泣き

2023年11月4日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

怖い

 3.11を経験した日本がゴジラを撮るとなるとどうなるか?という難解なお題目に対し、アニメ的文法を基調としつつ岡本喜八氏的な演出を混ぜこみ、一般的な邦画フォーマットで撮られた邦画でよく見られる"ありがちな人間ドラマシーン"を可能な限り排除するというトリッキー過ぎる方法で見事に答えてみせ、すっかり"特撮ファンの中でしか楽しめない閉ざされたコンテンツ"と化していたゴジラシリーズの壁を打ち破ってくれた傑作、あの『シン・ゴジラ』の次の実写国産ゴジラ……その監督が山崎貴氏になるとの初報を知った時、感じたのは妥当感と不安感の両方でした。
 同氏の過去作には、邦画では珍しいVFXを活かしたハリウッド然とした作品(『ジュブナイル』『リターナー』『永遠の0』『アルキメデスの大戦』)が多いです。シン・ゴジラの監督人選が庵野秀明氏と樋口真嗣氏の2人となったことは、両名が"2016年の邦画界にいる人の中で、画作りに優れ、かつ、特撮を撮れる人"という基準で真っ先に思い浮かぶ面子であった為、当時強い妥当感を感じていました。どの様な出来になるにせよ、この2人以外に新しい国産ゴジラを撮れる人はいないと思ったのも覚えています。(庵野氏の実写映画という点に不安は感じていましたが…)
 一方で山崎氏はというと、フィルモグラフィー云々以前にドラゴンクエストの炎上騒動が真っ先に思い浮かぶ状態でした。"ドラクエファンの誰一人として求めていないテーマをドラクエ映画で描いてしまった"ことに起因した炎上は、傍から見ていても「何故そんなことをした…?」と言いたくなるレベルに酷いものだと当時感じたのをよく覚えています。前回は特撮畑という人選で、今回はVFX畑という人選なら山崎氏が選ばれるのは妥当だとは思いつつも、ドラクエ同様にゴジラでも描くべきテーマを著しく選び間違えてしまい、シン・ゴジラが切り拓いてくれた『国産ゴジラ映画継続の道』を閉ざされてしまうリスクを想像すると素直に喜べないというのが正直な心境でした。(ファイナルウォーズからシン・ゴジラまでの12年間、パシフィック・リム等の洋物を楽しみつつも、国産ゴジラ映画がでないことに一抹の寂しさを感じ続けていたことを思い返し、尚更そう感じました。)

 ファーストトレーラーが公開され、合わせて、戦後間もない日本が舞台となるという情報が解禁された時、多少不安感は拭われました。シン・ゴジラと差別化するという強い意図が明確に感じられたからです。山崎氏が手掛けた第二次大戦下の日本を舞台とした映画(永遠の0・アルキメデスの大戦)は個人的には良作だと感じられましたし、加えて『ALWAYS 三丁目の夕日』でゴジラをカメオ出演させていたことを考えると、山崎氏の中にはこの時代にゴジラを出すという強いビジョンが昔からあるのでは?という考えも出てきて、期待感は一層高まりました。(ただ、炎上騒動の関係で、完全には不安を拭えていませんでしたが…。)
期待半分、不安半分な心境の中、いよいよ公開日を迎え、公開初日の初回上映に足を運びました。

 劇場を出た時、感じたのは山崎氏に対し不信感を頂いていたことに対する申し訳なさと、公開まで持ち続けていた不安が杞憂に終わったことの解放感、素晴らしい映画を観れたという満足感でした。

 本作『ゴジラ-1.0』は、まず"普通の邦画"として観れる上に面白い作品となっている点が素晴らしいと強く伝えたいです。ゴジラ映画の多くは、特撮(ゴジラ)映画の文法を理解した上で観ることが求められる作品(言葉悪く言うと、洋画はおろか普通の邦画と比較しても稚拙で、自分みたいなゴジラ好きなら楽しめるが、そうでない人には勧められない作品)が多いです。シン・ゴジラですら、普通の邦画とは全く異なるフォーマットで撮られており、多少人を選ぶ癖のある作りとなっている点からもこれは快挙だと思います。
 そして映像表現が素晴らしいです。ゴジラが出てくるシーンはその殆どが昼間で、画面を暗くしてCGの粗さを誤魔化すといった小細工はされていません。ド直球で勝負をしてきてくれています。画作りも優れたシーンが多く、どこかジュラシック・パークやジョーズを連想させるユニークなシーンや、過去のゴジラ作品(特に初代ゴジラと金子修介監督のGMK)やガメラ作品(ガメラ2)へのオマージュを感じるシーン、ハリウッド版ゴジラ(ギャレス・エドワーズ版から始まった一連のシリーズ)に優るとも劣らない迫力の、ゴジラによる積極的な破壊シーン等、見応えのあるシーンばかりです。特に破壊シーンの出来は素晴らしく、シン・ゴジラで足りていなかった"ゴジラによる『積極的な』破壊シーン"を十二分に堪能できました。(シン・ゴジラのゴジラは、ただ歩いている中で被害が拡大するシーンや、攻撃されたから反撃するといったやや消極的な破壊シーンが多く、ここは個人的に物足りなかったポイントでした。)
 中盤の見せ場である銀座のシーンは、名作『ガメラ3』における渋谷のシーン級の名シーンであるといっても決して過言ではありません。足で踏まれ、倒壊した建物に潰され、◯◯で吹き飛ばされたりと、人の死の描写でてんこ盛りです。直接的に人の死を描写しなかった(撮ってはいたがカットされた)シン・ゴジラもそうですし、過去のゴジラ作品においても直接的に人の死が描写されることは意外と少なく、そういったこともありこれらのシーンはとても新鮮に感じられました。こうした描写と過去作イチのCGクオリティが描くシリーズ最大級に凶悪なゴジラは最高の一言。・・・欲を言えば、銀座以外にあと1つ大きなスペクタクルシーンがあればより最高でしたが、流石にそれは求め過ぎというものですね。

 ドラクエで問題となり、個人的にも一番気になっていたテーマ設定についても本作は秀逸でした。人間ドラマパートでは『生きる、生き抜く』をテーマとして徹底的に描きつつ、今回のゴジラは"戦争の象徴"として据えられています。特攻くずれの主人公を始め"戦争に生き残ってしまった"と"無力で何もできないまま終戦になってしまった"と感じている帰還兵達が、戦争の象徴たる本作のゴジラを倒す為に決死のアプローチを重ねる過程は『生き残ってしまった』『役に立てないまま、戦争に負けてしまった』というネガティブな感情を『生きる』『今度こそ役に立てる』というポジティブな感情に転換させる過程でもあり、ドラマとして見ていて非常に気持ちの良い仕上がりになっていました。最後の作戦は"彼らにとっての終戦"を迎える為の通過儀礼として自分は受け取りましたが、その作戦内容も然り、作戦に従事する兵器、流れる劇伴のチョイスにおけるハッタリの利かせ方がこれまたとんでもなく気持ち良く、思わずゴジ泣きしてしまいました。(観終えてから登場した兵器の背景を調べて頂けると、更に楽しめるかと思います。)

 無論、完璧な作品では無くツッコミ所は多い作品ではあります。特に場面の転換時が顕著で、場面転換前と後の間が描かれていないことが多く「いつの間にそこまで近づいてたんだ?」と思ったり「そんなに早くそこまで移動できるか?」と内心突っ込んでしまうシーンが多々ありました。ツッコミ所を気にしないよう観客に努力を強いるタイプの駄目な作品では決して無く、ツッコミ所を気にさせない勢いのあるタイプの作品であると感じられたので個人的には特に問題とは思いませんでしたが、人によってはこの点が観賞の上でのノイズになるかもしれません。

 シン・ゴジラの次という余りにも高いハードルを見事に越えてみせただけでなく、悪い意味での"内輪向けの映画"から、真(シン)の意味での邦画娯楽大作として幅広い人が楽しめるレベルにゴジラ映画を昇華してくれた山崎氏に対し、ただただ感謝したいです。本当にありがとうございました。

きしめん太郎