普遍的なことを説いてはいるが、脚本なのか表現なのか、わざとらしさを感じてしまうのが残念な点。
ヤナイが娘の白血病の治療に必要なお金を会社から不正に取得したことで解雇される設定はいいと思う。
その過程がワンカットで済ませられ、取って付けたようになっていることで、娘が死んだことと妻の半狂乱の矛先がすべてヤナイに向けられてしまう点にリアルさが欠けてしまっている。
主人公楓の友人のヨシ君がドナーがいたのにもかかわらず死んでしまう設定もいいが、そこに何の伏線もない。
ただ同じ病気で苦しんでいる児童のために、ヨシ君は生きていてほしかった。
ドナーになったヤナイのその後の人生がめちゃくちゃになってしまう点も面白いが、なぜ彼が楓を探そうとしたのか、彼は「どうしても会いたいんじゃ」と言い、「生きている意味を感じたいんじゃ」と明確な理由もいっているが、そこにどうしても「なぜそうなるの?」という疑問が残ってしまう。
仮に元気になった楓を見ることで、ヤナイの人生が大きく変わる設定にしてほしかった。
また、ヤナイと楓のすれ違いも多々あるが、しつこいだけでそこに意味が見いだせない。
さらに、楓が一人旅に出るが、カフェで看護師のみのりと待ち合わせるのも一般的ではなく、そこで楓を探しているヤナイの情報を提供するのもおかしい。
このような些細な偶然を装う箇所がいくつもあることで、ご都合主義になってしまい作品にリアリティがなくなってしまう。
特に冒頭のトレッキングシーンがあることで、楓は助かったことが伺えるので、闘病生活の辛さが半減してしまう。伏線になっていない。
どん底から次第に良くなっていく楓の生活に対し、どんどん悪くなってしまうヤナイの生活の対比はよく出ていてよかったが、やはり二人の出会いをもっとドラマチックに描いてほしかった。
楓が絵ハガキに思いを寄せているので、楓の想い出の場所を絵ハガキにしてヤナイに送るというのも面白いだろう。
その絵ハガキがヤナイの人生を好転させるように設定することで、人の人生の不思議さを演出しても面白かっただろう。
この作品は完治が難しい白血病と児童の命に焦点が当てられている。
同時に同じ過去を持った男が骨髄バンク登録したことで一人の児童の命が救われる。
ドナーが現れても死亡したヨシ君
きっと彼のような児童も大勢いるのだろう。
ヤナイの骨髄で一人の命が助かったならば、ヤナイは実家の母の埋葬の後自暴自棄になって楓を見て改心し、移植コーディネーターになってもいいと思う。
そう決断させる力が元気になった楓と彼女のはがきにはあるはずだ。
就職が決まっただけではなく、なぜそこに行きたかったのか?
例えば、ヤナイという人物の「いまの仕事」に憧れを持ったからという設定は、広く視聴者の共感を呼ぶだろう。
楓自身そんな人物になりたい。だからまだ会うことはできない。そんな覚悟をもって住所を書かず彼に手紙を送り続けるという設定もいい。
いつか同じ場所で働く二人 やがて彼女のことを知るヤナイ 彼女はヤナイを知っているが正体を明かさない。その理由をひっそり感じるヤナイ 過去の恩もいいが、今目の前にある命に焦点を当てる二人 お互いをお互いが知っていて打ち明けない。お互いを誇りに命に向き合う二人
使い古されたようなプロットかもしれないが、こうなれば最高の作品になっただろう。
アイドルの主演とそのために書かれた脚本 もっと最近の邦画の面白さを出してほしかった。
偉そうに書いてごめんなさい。