「鉄は熱いうちに打て!」REVOLUTION+1 かぜさんの映画レビュー(感想・評価)
鉄は熱いうちに打て!
足立監督が「映像に情感が滲み出すぎだ。紙芝居を作ってるんだから、そんなものはいらないんだよ。」と言う撮影秘話から、この映画の製作意図を考えてみた。ポイントは事件発生からわずか2ヶ月と言う異例のスピードで上映までこぎつけたことだ。事件の概要しか解らない状況下での映像化に対して、不謹慎と眉を潜める人、目立ちたがり屋の売名行為と批判する輩もいた。主人公に同情または英雄視する作品を想起したのかもしれない。限られた情報から、紙芝居のように事象を見せることで我々に考える機会を与える事がこの映画の目的だったのでは?そこには、作り手の解釈や想像は描かれているが、それを観客に押しつける傲慢さはこの映画にはない。監督は映像に情感が出ると感情移入を誘っていると誤解されるのではと危惧 したのではないか?この映画は、特定の人物を攻撃したり、賛美するために作られたものではない。
強烈な事件が起きた時は、雑多な情報が錯綜する前に速やかに自らの考えを検証することが大事であり、それが異例のスピードでの映像化の答えなのだ。人間は残念ながら大事なことを忘れる生き物であり、過去の苦い体験も瞬く間に風化してしまう。
星になりたいと願い続けた主人公は、悪者を退治するスーパースターでないことは確かだ。己の運命を恨んで凶行に及ぶまでの間、彼の周囲には心の涙が溢れるように雨が降り続ける。雨が降ってる間は、夜空に星は輝かない。映画の中盤、森の中に出現する黒い大きな柱に遭遇し、彼の内面で何かが変化する。命を削ってまで敵対していたものが、いかにそれに値しない無価値な存在だったか。それと同時に、不幸の発端の母親への憎しみも、哀れみと慈しみへと変化していくのだ。達観した果てに、彼は胎児になってゆくところで映画は終わる。何だこれはキューブリックの2001年ではないか!黒い柱はモノリスで、彼は立派な星になるであろう。スターチャイルドである。