劇場公開日 2023年2月10日

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「ハリウッド版『蒲田行進曲』?」バビロン talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ハリウッド版『蒲田行進曲』?

2023年8月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
映画は低俗なものか。
映画は大衆の心に刻まれる。
演劇を観る金や教養のない人々はボードビルや町の映画小屋に通ったんだ。
そこには、夢がある。銀幕に映る世界は意味を持つ。
「象牙の塔」の君たちはどうか知らんが、市井の人々は映画に深い意味を見出だす。
君には分かるまい。
ブロードウェイで10万人が見れば世紀の大ヒットでも、映画なら大コケ。

<映画のことば>
「セットに行ったことは?」
「ないです。」
「楽しいぞ。世界で最も魔法に満ちた場所だ。」
「そう聞いています。」

もちろん、映画は観て楽しむもので、製作する側の立場ではない評論子には推測でしかないのですけれども。
しかし、芸術の一つの分野として「真」とか「美」とかを追求する映画製作の世界は、決して「ありきたり」なものではなく、混沌としたものなのだろうと思います。その混沌の中から(自分なりの)「真」とか「美」とかを見いだし、つかみとった者だけが、名優・名監督・名プロデューサーとしてのしあがることが出来るのかも知れません。
そうして、その混沌は、映画作品が追い求める「真」とか「美」とかが深ければ深いほど、またいつそう混迷の度を極めるのではないかと想像します。
まして、サイレント映画からトーキー映画への過渡期という混乱も重なる中で。
本作は無声からトーキーへと映画製作のスタイルが変わる時代を背景に、そういう映画界の有り様を描いた一本ということなのだと思いました。

地元では大手の興行会社から独立して長くミニシアターを経営していた館主さんによれば、映画館の経営を含めて、映画を取り巻く世界は、ほとんどオタクでなければ立ち行かない世界とおっしゃられていたことが、評論子の記憶には、ずっと残っています。
きっと、製作の現場だって、そんな世界なのだろうと推測します。本作が、その全編を通じて漂わせているような。

本作の題名は、古代メソポタミア地方の都市・バビロニアの栄枯盛衰(歴史的な混沌)をなぞらえるものでしょうか。

ハリウッドの時代の流れ・変遷を大きな背景としてオーバーラップさせながら、そんな混沌(無秩序?な)世界を生き抜いてきたマニーやラロイ。その生きざまが、心に刻まれる一本でした。

そういうことでは、映画を愛して、その愛情で映画を一本の育んで(作って)いく人たちの生き様を、声高に主張するのではなく、何気なく…反面、余すところなく描いているという点では、同じく「映画讃歌」としては素晴らしい出来だった『蒲田行進曲』を彷彿とさせる一本でした。評論子には。

佳作であったと思います。

talkie