劇場公開日 2023年11月10日

正欲のレビュー・感想・評価

全273件中、101~120件目を表示

3.5性欲ではなく正欲

2023年11月30日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

 いわゆるフェティシズムをテーマにした物語と捉えたが、拡大解釈すれば多様性についての物語、マイノリティの苦しみ、孤独を描いた物語という風に捉えることも可能だと思う。あるいはサブキャラに着目すればまた違ったテーマも見えてきそうである。本作は色々な切り口で語ることができる作品のように思う。

 登場するエピソードは全部で3つあり、一つ目は特異なフェチを自認する男女、佐々木と夏月が運命的な再会を果たすドラマである。二人には過去の思い出がありそれが時を経て蘇るという、ややメロドラマめいたストーリーであるが、実際にはそう楽観的に見れる内容ではない。周囲からの疎外感、孤立感に苦しむ両者に焦点を当てながらシリアスに展開されていく。
 二つ目は正義感の強い検事寺井のエピソードである。不登校の小学生の息子、妻との冷え切った関係を描くホームドラマを、インターネットの弊害やそれに伴う犯罪を絡めながらシビアに描かれている。
 三つ目は、過去のトラウマから男性恐怖症になった女子大生がイケメンのダンサーに惹かれる恋愛談である。

 夫々のエピソードは終盤で数奇な結びつきを見せるが、ここで最も重要となるのはやはり一つ目のエピソードであろう。ここを土台にして他の二つのエピソードが展開されており、終盤で夫々が相関することで社会の価値観、既成概念に対する疑念の目が観客に問題提起という形で示される。
 それはつまり、世間一般の物差しでいう所の”普通”とは何なのか?”普通”と”普通でない”ことの差にどれほどの意味があるのか?といった問題提起である。

 また、本作を観て橋口亮輔監督が撮ったオムニバスコメディ「ゼンタイ」という作品を連想した。そこには全身タイツフェチの同好会が登場してくるのだが、周囲の奇異の目をよそに彼らは仲間同士で案外楽しくやっていた。
 本作の佐々木と夏月も同行の士として関係を深めていく。他人に理解を求めるでもなくひっそりと寄り添って生きていくその姿は実に健気で切なく観れた。

 そして、ここが興味深い所なのだが、フェチというとどうしても”性欲”と混同してしまいがちだが、本作の佐々木たちも「ゼンタイ」の人達も性的な欲望を持っているわけではない。彼らは他人とは違う自分の存在意義、アイデンティティを保つために、同じ”癖”を持つ者同士で繋がっているだけなのである。人が生きたいと願う欲望。つまりこれがタイトルにある「正欲」と繋がるのだが、自分はこういう形で嗜好を持つ者もいるのか…と認識を改めさせられた。

 岸善幸監督の演出は抑制を利かせたタッチで上手くまとめられていると思った。特に、佐々木、夏月を演じた磯村勇斗と新垣結衣の繊細な演技が素晴らしく、おそらくこのあたりには監督の演出意図も大いに寄与していたのではないかと推察する。
 その一方で、ベッドの上の夏月が水に侵食されるシーンなど、陶酔的な映像演出も時折見られ、これも中々面白いと思った。
 そして、最も印象に残ったのはラストカットの切れ味の良さである。この突き放すような終わり方は実に潔い。
 佐々木と夏月が直に面と向かって再会するドラマチックなシークエンスにも上手さを感じた。その後二人はホテルに入るのだが、この大胆な省略の仕方には唸らされる。

 一方、残念だったのは三つ目のエピソードである。他の二つのエピソードに比べると描き方が浅薄という感じがしてしまった。ヒロインがダンサーに惹かれる理由が分からず、その顛末についても今一つスッキリとしなかった。他のエピソードに比べると中途半端な扱いだったのが惜しまれる。

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ありの

4.0良い映画の条件

2023年11月30日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

萌える

レビューで多少辛口コメントもあったので鑑賞が遅くなりましたが、とても良い作品でした。他人には理解できそうもない性癖や嗜好など大小はあれど、ありますよね。検察取調べ等の違和感や不条理はありますが、まあ戦後日本の冤罪事例等を見ていると無実の人を有罪と自供させ最悪は死刑執行までさせている様なあり得ない事例のある国なので、無くはないかなと。感情をコントロールさせるような変なBGMが無く、エンディング曲が素晴らしく、磯村勇斗が出ていれば素晴らしい作品間違い無しですね。ガッキーはとても素晴らしかったです。

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tomクルー

4.0生きづらさを抱えて

2023年11月29日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

普通じゃないかもと思い悩むのは、むしろ普通のことかもしれない。メディアで流れているのは大人たちが作ったものだ。それらとズレていても、個性だという時代に段々近付いて来ているのだろうか。「普通」について考えるとき、普通ってなに?ミー坊わかんないってなる。そういえば、そのときのミー坊の友達が出てたな。ガッキーの映画は初めてでした。クセのないゴローちゃんを初めて見たような気がする。

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印刷局員

4.0LGBTQという言葉がある限り

2023年11月29日
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鑑賞方法:映画館

個人評価:4.2
LGBTQを描く作品が量産される中、この物語は他のどれとも違うと感じた。
「地球に修学旅行に来ている感じ」。
その台詞が心にトゲの様に刺さり、物語の世界観を一言で表現している。
何者を見た後と同じ感覚になり、朝井リョウの物語は鑑賞前と後では、自分が違う価値観を植え付けられた実感がある。
また物語だけで全てを語らず、余白を残した部分があるので、自問自答ができ、自分自身の考え方の物語がそこから始まる。
ある意味では夫婦や恋人同士では見てはいけない作品でもある。
いや、ある意味ではなく本質か。

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カメ

3.0苦しい

2023年11月29日
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異性を恋愛対象に見れて、楽しく性行為ができて、結婚して子供産むのが普通とされるのにうんざりする日々。でもそれを否定すると「人類滅亡する」とか「生物としての本能が」と叩かれる。私も何回も言われてきました。

レビューでも「水フェチって死にたくなるレベルのこと?」と言われているが、当事者にとってはそれくらい大きな問題なんですよね。夏月と佐々木くんは分かり合えてよかった。でも現実そう上手くは行かないよなと思ってしまった。アセクシャル同士の婚活アプリとかあったらいいのにな…。諸橋くんはせっかく同志の仲間ができたのにそのせいで取り調べを受けることになって、心を閉ざしてないかな?同じ大学の八重子は男の人が苦手だけど諸橋くんは大丈夫って言ってたの、諸橋くんが女性に性的感情を抱いてないからなのかな。

矢田部は水フェチでも「服が濡れるのが好き」と言っており最初から人間を通した水フェチ(?)だったんですよね。その時点で怪しむべきだった。小児性愛者=悪とは言わないけど、未成年の買春・ポルノ撮影は違法ですからね。我々が言う多様性とかマイノリティへの理解に「犯罪者」は含まれていませんから。

小児性愛者の取り調べを稲垣吾郎がやってるのなんかヒヤっとしちゃった。某性加害ニュースを彷彿とさせるというか。

でも"正常な人間"が思ってるほど異常な人は多いですよ。子供のYouTuberを性的に見てる人なんか山ほどいます。YouTuberだけでなく子役も。自分の子供が性的消費されて初めて「そんな人間がいるなんて!」って怒るの世の中を知らなすぎでは?と思います。

夏月の職場に来る妊婦の同僚。夏月が彼氏いないって言うと驚いたり出産するの前提で話したり。この女性もやがて親になるんですよね。子供にも同じこと言って育てるんだろうな。子供がマイノリティ側だったらこんな親で生きるの辛そうだな。

まあマジョリティ側のおかげで社会は成り立ってるわけだし、そっちが「正しい性欲」で別にいいよ。どうせマイノリティ側は子孫を残せませんから。私は社会に何も期待してません。こういう問題提起をする作品を見たところでみんな次の日には忘れてマイノリティを見下すんですよ。

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餅

4.0秀逸な映像表現と抑制の効いた演技で、原作未読でも十分に堪能できる一作

2023年11月28日
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鑑賞方法:映画館

朝井リョウ原作の同名小説を未読のまま鑑賞した観客による感想です。上映時間の枠に収めるためか、主要登場人物に絡んでくる何人かの人物についての描写を、ある程度省いているんだろうな、と想像する部分もありましたが、作品が投げかける声高でなくても確固とした問いかけは、確かに原作未読の観客にも届きました。

「多様性の尊重」という言い回しがすっかり定着した現在においても、他者とは違う特性を備えているという自覚によって、社会から孤立しているという認識から抜けられない人々は確実に存在しており、本作はそうした「声にならない声」をなんとか描出しようとする試みであると受け取りました。

評価が非常に高い小説を原作にしているものの、本作は一つの映像作品として完結した完成度を備えています。たとえば冒頭、ベッドに横たわる主人公、桐生夏月(新垣結衣)を捉えた幻想的なまでに美しい一連の映像は、彼らが一体どのように社会と接合しているのか(あるいはしていないのか)、何が本作において重要な要素なのかを、映像作品でしかできないような語り方で表現しています。

多様性の枠からもふるい落とされ、決して周囲の人々には理解されないだろうし、それに対して声高に異議申し立てもしないけど、それでも生き続ける、という主人公たちのあり方には、どこか『流浪の月』を連想させるものがありました。

これまでのイメージを覆すような新垣結衣の凄みすら感じさせる演技はもちろん、稲垣吾郎の、社会的正義の体現者のような振る舞いと、一方でどこか弱さを感じさせる立ち振る舞いが素晴らしく、こうした演技面でも楽しめる一作です。

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yui

4.0拗らせてるガッキーが良すぎた。

2023年11月27日
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難しい

多様性であったりSNSだったり、現代社会において考えるべき問題に触れられた作品でした。

結局その人の価値観が普通かどうかって自分じゃわかんないんですよね。
人から見て普通に見えたら普通だし、異常に見えたら異常なんだなと思います。

やっぱり人は、人がいないと生きていけなくて、周りからそこにいると認めてもらわなければ社会性がなくなる。
異常としてみられてしまったら関わり合いたくないからそこにいないものとして排除したくなる…
そうすると社会から消されてしまって自分の生きてる意味がわからなくなるんですよね。

ガッキーの『うるさい…』はすごく良かった。自分もあんなこと常日頃から言われたら頭がおかしくなりそうだから。

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みーくん

3.5多様性

2023年11月27日
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鑑賞方法:映画館

難しい

自分たちの生きている社会は、多様性を持っているはず。
でも、だいたい普通とか、当たり前という事で、答えは大抵決められている。
そこに外れれば、他人に色々言われてしまうから。

似たような人の生きる狭い場所で生きている私には、この映画は理解しにくい事も多かった。
でも、どれが正しいというのはない。
映画の中では、稲垣吾郎が息苦しいほど、正しさを振りかざしていた。
多様性を当たり前のように開示して、お互いつながり、認められるようになるといいな。

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coo

4.0非常に良い作品だった。原作を読んでいたので、映像化が難しいのではと...

2023年11月27日
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非常に良い作品だった。原作を読んでいたので、映像化が難しいのではと思ったが、良い演出で、伝えたいポイントが無駄なく入っていて、よく出来ていた。良作!

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おれ

4.5正欲とは

2023年11月26日
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悲しい

知的

難しい

多くの人は、自分の全てをオープンにしてはいないし、何かしら隠したい部分はあると思う。
でも、多くの人が言う普通というしがらみに生きづらさを感じている人は、みんながオープンにできていることですら、隠してしまう、隠す必要がでてきてしまう。
その普通というのはこの作品では、性的趣向を主に取り上げています。

人ではなく水に魅力を感じるというのは、私にとって大きな衝撃でした。もちろん水の音や映像は綺麗だと思うことや癒されると思うことはあっても、それらが興奮の対象になったことがないから。
でも、世の中にはそれが普通な人もいる。その人たちには、人を興奮の対象にすることに違和感を覚えている。
何の悪気もない一言一言が誰かを苦しめているかもしれないと思うと、何とも言えない気持ちになりました。

だれもが自分の中の欲を正しいと思っていいと思うし、誰かにその正しさを決められる必要はないと思う。

この作品では、新垣さんが今までのイメージとは違う普通で陰なオーラを纏っていて、感情を爆発させたりするシーンは非常に圧倒される演技でした。
桐生が寺井にありえないって簡単に片付けられたことありますか。って言った時のシーンはこの映画の全てが詰まっていたと思います。

うまく言葉でこの映画の良さを伝えられないからこそ、観てほしい映画です。

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green

3.5「待ってるから…」ではなく「いなくならないから…」

2023年11月26日
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今、セクシャルマイノリティの存在を社会は認知し、それを理解して受け入れることを我々は課されている。
性的“指向”や性同一性障害については理解が深まり、これを否定することは愚かしい行為・考えだということが社会通念となった。
しかし、性的“嗜好”についてはどうか、と本作は投げかける。
性的嗜好にも色々なものがあるのだろうが、その嗜好の対象が人間ではないケースをとりあげている。

元来、性に関する嗜好は秘事として他人には明かさないものだ。だから、人間関係においてお互いの性的嗜好など知らないまま周囲の人たちと生活しているのだが、少なくとも人間が性の対象だと勝手に思っている。
そうではないと説明されると、理解が及ばない。その理解できない者として検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)が登場する。
しかし、ここまで頭の悪い検事がいるのだろうか。あまりに作為的で時代錯誤も甚だしいキャラクター設定に辟易としてしまった。
これを市井の視点を象徴しているのだと言うなら、ナンセンスだ。
朝井リョウの原作は未読だが、おそらくこんなに薄っぺらに無理解な男として書かれてはいないのではないか。分かりやすくするための脚色が短絡的になりすぎたのではないかと思う。

映画の前半は、横浜、福山(広島県)、千葉を舞台に主要な登場人物が群像劇的に並行して紹介される。

横浜の会社員 佐々木佳道(磯村勇斗)は、明日も生きていたいと思う感覚が持てないでいる。ある日突然両親を事故で亡くすが、それによって楽になったと感じている。

福山のショッピングセンターで働く女性 桐生夏月(新垣結衣)は、親が「結婚ばかりが幸せではないから…」と気を遣って言うほど浮いた話から縁遠いようだ。職場で親切を押し売りしてくる同僚(徳永えり)に酷い態度をとったりする。
ベッドの上で水に包まれていく自慰行為の場面が、演じているのがガッキーだけに衝撃的だ。

佳道は福山の高校で夏月と同級生だったことがやがて分かる。
この二人と、千葉の大学生 諸橋大也(佐藤寛太)には共通の性的嗜好があった。

千葉の大学で大也と同学部の神戸八重子(東野絢香)は、彼らとは別次元のトラウマに悩む女の子だ。男と触れあうことができないのだが、大也に対してだけは拒絶反応が現れない。
大也は周囲の人に迎合せず距離をおいている。八重子の距離のつめ方に我慢ならないでいる。

検事の寺井は、10歳の息子が不登校児なのだが、それを甘えと決めつけるような固定観念の男。妻(山田真歩)が板挟みで苦しんでいる。職場でも事務官(宇野祥平)の助言に耳を貸さない。
ただ、独善的ではあるが正義感は強い。

そんな登場人物たちが交錯しはじめて物語は転換点に至るのがセオリーだと思うが、この映画はそれほど劇的に展開しない。別々の物語が割と長く続くのだ。
自分が普通ではないと自覚していて、普通のフリをして生きている佳道、夏月、大也の卑屈さばかりが際立ってしまって、生き辛さがぼやけてしまってはいないか。
個々のエピソードに拘りすぎて迷走した感が強い。監督の岸善幸は、前作『前科者』でもテーマを見失っていた。

佳道と夏月は世間をはばかる究極の決断をするのだから、彼らの関係を丁寧に描くことは必要だ。
寺井の家庭の事情を描くことも、彼の状況を示すために必要だったかもしれないが、冗長な気がする。
最も割愛すべきは、大也と八重子のエピソードではないか。大也に八重子との関係から変化が訪れるワケではないし、八重子は佳道とも夏月とも寺井とも接触がないのだ。
これらを整理することで佳道と夏月に物語を絞り、核心を示唆するエピソードを織り込んだ方が良かったのではないかと、残念だ。

だが、全編を通して削ってよさそうな上記の箇所に、印象深いシーンがあるのだから、困った。

寺井の妻を演じた山田真歩と、八重子を演じた東野絢香の迫真の演技が、心に残って離れない。

映画やTVドラマで脇のキーポジションを数しれず担ってきた山田真歩が、息子の望みを叶えてやりたくて夫と息子に会話をさせようと努力する母親を演じて、さすがの技量を発揮している。
息子は父親の無理解のほどを知っていて期待をしておらず、父親は寄り添う気がない。父親=夫は家庭に興味がないくせに、妻と息子が他人に頼ることに怒りをあらわにする。
そんな夫に対して沸点に達した山田真歩の叫びは、稲垣吾郎の横暴男ぶりが腹立たしいほどハマっていることもあって、耐え続けた者の渾身の反撃を迫力満点に表している。

映画初出演という東野絢香は、オドオドした内向的な女の子を実にリアルに演じ、本作で最も強い印象を残す。
大也がアルバイトをしているホットドッグのキッチンカーを訪れた八重子に、大也が辛辣な言葉を投げる場面での八重子の狼狽。
意を決した八重子が大也に告白しようとする二人きりの講義室の場面では、大也が八重子に嫌悪感を示していると分かっても必死に心からの言葉を発し、大也の心が氷解すると同時に、彼が求める相手は自分ではないと悟る。そして「よかった…」と言う切なさ。
東野絢香の抑制した演技が素晴らしい。

と、これらを削るのは忍びない…。

クライマックスは、寺井検事と被疑者の家族である夏月の対峙だ。
ただ、このクライマックスで夏月が寺井に突きつける“否定される者からの問い”は予告編に織り込まれていて、その先があるのだろうと思っていると肩透かしをくう。
そもそも寺井の言動に共感できないから、夏月の訴えは単に頭が悪く妻に愛想を尽かされた検事個人に向けたものだと感じる。さらに、前述のように夏月たちの生き辛さは彼等の卑屈さで相殺されてしまっているから、同情心を抱かないわけではないが、私の胸には迫ってこない。

この映画は、性的嗜好も多様性だと言いたいのか、逆に多様性尊重主義に疑問符を打ちたいのか、あるいはその両方を観客に問題提起として示したいのか、いずれも寸足らずだ。

重要なのは、夏月が参考までにと寺井から訊かれたことに応えた最後の台詞だった。

夫が我が子を虐待するのを見て見ぬふりをした過去を持つシングルマザーの新人刑事。
自暴自棄になる少年少女に電話でカウンセリングを行いながら、無力感に心を痛める沖縄の女医。
明るくカワイイ女性像からの脱却を図るかのような最近の新垣結衣は、本作でもその美貌のオーラを殺して演技者のスキルを示している。

磯村勇斗の昨今の活躍ぶりは、語るに及ばずだ。

この二人が演じた夏月と佳道の秘密の関係は、人と人との繋がりの捉え方に一石を投じている。
男女間の友情とか、恋愛のない夫婦とか、古今東西で検証が重ねられた男女の関係に、想像もしなかった新たな、異質なものを持ち込んでみせている。
お互いが異性への性欲を持たないからこそ成立する、肉体関係がなく、お互いを尊重する男女愛。

「いなくならないで」と佳道に懇願した夏月が、会えなくなった佳道に伝えようとした言葉…。

生来孤独感の中で生きてきて、ようやく結びついた二人。支え合う相手を得ることは、生きていくエネルギーとなるのだろう。
この二人にハッピーエンドが訪れることを願わずにはいられない。

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kazz

2.5いや、普通にプールいこうよ。

2023年11月26日
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原作の切取り方が潔く、再構築も秀逸。

キャスト陣もイメージぴったり。

検事の奥さんだけはちょい違ったかな。

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ヒビノミライ

3.5新垣結衣・・

2023年11月25日
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以前から新垣結衣という俳優に不思議な思いがあった。
世間的にはガッキーと呼ばれ可愛いとか、チャーミングとかの声が多い。確かにその部分はあるが、私は彼女が俯瞰で自分を見ているような、暗いというのとは違うが身体の奥底に持っている陰のようなものを感じていた。
今回の作品は私が感じていた新垣結衣そのもののような気がして、そ、これこの感じの役を待っていた!
と、いうのが一番の感想。

不愉快感もありながら、自分自身と向き合せでくれる
そんな作品でした。

原作の視点か凄い!

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ノベコ

2.5欲とは今日を生きること

2023年11月25日
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なかなかの問題提起
どうして欲の多様を主題にしてる映画をハッピーエンド?というか、そのままで良いよと描けないのか。
主体はマジョリティ目線。
欲とは?生まれもっての本能
性欲・食欲・睡眠欲
3大欲求だけで終わらない人間の欲だけれど
集団に認められたい帰属意識・自己承認欲求
やっぱり自分の存在を肯定してもらいたい。
桐生夏月・佐々木佳道
2人が繋がれたことが幸せなんだからそれで良いのではないかな。
どんな性・生でも、まずは2人の世界。
わかってもらえる人を人は必要として、それが生きる意味になるのだと信じている。
「明日、死にたくない」より
「今日、今を生きたい」が欲の本質なのではないか。
原作もだが映画はもっと説明があとづけ
もう少し夏月と佳道
水に対する思いを、そしてふたりが出会えた歓び理解しあえる絆をしっかり描いていて

絆を訴えて続けた神戸八重子
諸橋大也との関わりのシーンが意味深い。

新垣結衣・磯村勇人・稲垣吾郎
もったいない使い方。

水の魅力ならシェイプオブウォーターの様に本能に投げかけた映像を
年齢制限Gに引っかかるけど
新垣結衣ちゃん
やっぱ水と融合するシーンは服ない方が納得できる。
別に裸見たいわけじゃないけど

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gomako1933

2.5正欲

2023年11月25日
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この作品を鑑賞したあと、なぜこのタイトルになっているのか分かり、衝撃を受けました。一つ一つのシーンに見逃す瞬間がなく、とくにドアミラーにうつる新垣さんの姿が一瞬にも関わらず、恐ろしく人の怒りを表現していてとても凄かったです。小説も読んでみたいと思えましたし、心揺さぶられる良き作品でした。

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ナギサ

4.0今の時代にあってる

2023年11月25日
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生きるのに面倒な世の中になってしまったんだなぁ。と感じてしまう映画でした。特にお子さんの不登校の描写なんてのは普通になりつつあるような気がして。

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mm

3.0性欲を描けていないような

2023年11月25日
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朝井リョウの原作は読んでいました。
小説は深い印象を残す作品だったのと、試写会に参加した友人がすごい作品だった、絶対に観た方がいいと言っていて、期待しすぎたのかもしれません。

まず、水に性的興奮を覚える人たちの描き方が美しすぎました。
水を見ているとき、噴き出した水を浴びているときの顔は、恍惚とした表情のようではあるものの、あれは性的興奮を覚えている顔ではないです。
役者が悪いのではなく、あえてそういう演出にしているのだと感じました。
性欲は正欲ですが、人間の動物な面が剥き出しになる本能的なもの。
映像だからこそ、そこをきっちり描いてほしかった。

よかったのは大学生パート。佐藤寛太の匂い立つ色気が印象的だったのと、東野絢香がとてもいい演技をしていました。いちばん伝わってきた。

稲垣吾郎が主演だけど、印象としては新垣結衣が主演という雰囲気。この2人の演技はどちらもいまひとつ。
カレンが制作なので、朝井リョウ原作作品に、飯島さんが吾郎ちゃんを主演させたかっただけなのかな。

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Carryko Emi

3.5生欲だと思ってた...

2023年11月25日
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原作は未読です。

欲といのは、どのような形であれ、
皆が持っているものであって、
水が好きなのは性癖であって…

で、このタイトル、生きる欲で「生欲」だとずーっと思ってた...汗

だから、そんな変わった癖(ヘキ)を持った者や
または、男性との距離に不安を感じてしまう者や、
いろんな理由で生き辛いと思ってしまう者たちが
生きようとする欲の話という理解でいた...。

率直に思ったことは、
水で快感を覚えることは、何一つ後ろめたいことではなく、
夏生や佳道の人間性が、なぜ、あんなに暗くて、
コミュニケーションスキルがなくなってしまったのかが、
良く判らなかったのです。
こんな私、誰も理解してくれないからって理由が、
仏頂面で仕事する理由にはならないし、
それとも、昔、それが原因で虐められたりしたのかな。
そこが描かれていないので、佳道はまだしも、
夏生は、とても自意識過剰で自分本位で甘やかされて育てられたのかしら?
などなど、彼ら二人への共感が薄れてしまいました。

個人的には、水を見たり触ったりしたら、わたし快感なんだー!
と言われても気にしないし、別に言うことでもないだろうしね。
それより、公園の水、無駄遣いしないでって、ツッコミ入れてました 笑

もうひとつ、別にセックスしなくても生きていけるだろうけど、
でも、そこには興味あるんだね?
その感覚は、歳の割には幼いのね。
(窓ガラス割るのも、あの歳でやりますか???)
じゃあ、もし、セックスを実際に経験したら、
快感を覚えるかも知れないということ?
などなど、この二人のパートには、疑問符多めでした。

その反動か、神部八重子のパートが一番、胸に響いたし、
東野さんと佐藤さんの演技が素晴らしかったです。
神部八重子さんの男性が苦手だけども、
性別的に男性である“人間”を好きになってしまったという事実は、
とてもしんどいよね、でも、ものすごく生きようとしてるよね、
と守ってあげたくなりました。

ということで、原因は様々だけど、
生き辛いと思っている人たちを理解するという問題提起にはなっているのかな…

原作を読んでみたほうが良いのかな
もっと個々のキャラが深く描かれているのかしら?

にしても、「生欲」のが合ってない?

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hkr21

3.0普通は罪なのか

2023年11月24日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

萌える

普通って難しいということを改めて植え付けられた。
普通に生きたいという裁判官がまるでつまらない人間だと言われてる気になる。

誰も悪いわけじゃないけど(犯罪はダメだけど)別に全てわかりあえなくてもいいということも伝えてほしい。

普通に生きて、普通に離婚する。
わかりあえる人を探す。
どちらも正しい

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ふわり

3.5迷い道

2023年11月24日
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鑑賞方法:試写会、映画館

共感が出来るわけではないが、誰もが人から見れば理解されない趣味や嗜好性を持っている。本だろうと映画であれ、興味のある人は多いかもしれないが、興味の無い人にはどうでも良いこと。
しかし、人は同じ嗜好の人と繋がり易くなり、嗜好が違うと繋がり難い。
これが今の世の中?
なんて、私でさえ、鑑賞後に色々と議論したのですが、やはり咀嚼は出来てません。それで良いのかも。

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AKIRA