「じゅうごえんごじっせんって言ってみろ」福田村事件 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
じゅうごえんごじっせんって言ってみろ
1923年(大正12)9月1日、関東大震災が発生。
混乱する人々の間では朝鮮人の野蛮さを広める流言飛語が飛び交っていた。
朝鮮で教師をしていた澤田は、妻と共に故郷の千葉県福田村へ帰ってくる。
福田村でも混乱は広まっていたが、そこへ香川から薬の行商団がやってきたことで、阿鼻叫喚の悲劇が起きてしまう。
2023年最後の映画になります。
クリスマスにものすごく久しぶりに母親と地元で映画を観てきました。
この映画は絶対に地元の映画館で年内に観ておくべき作品だった。
というのも、私はこの福田村のあった隣の市に住んでいる。
関東大震災から100年、この映画が作られてプロモーションが行われている中でほぼ初めて事件の概要を知った。
近くの市に住んでいるのに、なんなら福田村のあった場所へ行ったこともあったのに、なんとなく名前しか聞いたことがなかった。
恥ずかしく、そして悔しかった。
だからこそこの映画を年内に観ることができて本当に良かったと思う。
気持ち悪い。ひたすら気持ち悪い。
時代だから……では絶対に片付けられない。
マスコミの問題や政府の統制の問題も勿論あるだろうが、「村八分」という言葉に代表されるような、閉鎖的で独特のコミュニティと結束感に吐き気が止まらない。
村民同士が監視し合い、そこに異端分子が現れたり、秩序の枠をはみ出たりするとすぐに排除を始める。
そこに軍国化のスパイスも加わって、勢いはさらに増していく。
止める者いたが、そんな力ではとても手に負えない感じがリアルで恐ろしかった。
惨劇までの顛末をゆっくりじっくり描いているのも印象的だった。
行商団と自警団が衝突してしまったあの場まで、ジワジワとことが進んでいく。
朝鮮あめを買ったり妊婦がいたり死亡フラグがどんどん立っていくのも辛い。
男の子だったらのぞむ、女の子だったらのぞみ、ええ名じゃ。
そしてあの惨劇、村民たちの憎しみの目線や竹槍を刺した時のブスっという音、色々と生々しく衝撃的であった。
キャストも一流。
当時あれほど信念を持った記者がいたかどうかは分からないが、女性記者役の木竜麻生は素晴らしかった。
それとなんと言っても、あの役を引き受けた東出昌大。
彼の演技は昔から色々言われているけれど、日本映画に欠かせない名優になったと個人的には思う。
日本人にしか作れない映画だと思う。
勿論、関東大震災による混乱期の朝鮮人虐殺が根底にはあるが、この事件はさらに勘違いから同じ日本人を殺してしまったという悲劇を描く。
そこで出てくる、だったら朝鮮人は殺していいのかという問い、被害者の彼らが被差別部落出身者であったということも含め、到底一言では語りきれない。
そして、我々はこの事件に関して実際に目撃したわけではない。
ここで犯人探しをしてしまっては、流言飛語に惑わされて福田村事件を起こした彼らと同じことだ。
現代でも似たようなことは起きるかもしれない。
混乱の時こそ冷静にあるべきだと深く考えさせられた
韓国語勉強中だから澤田が朝鮮で言った言葉が分かれば良かったのだが、それは少し残念。
良いものを観た。
共感ありがとうございます。
レビュー題に使われた言葉ほどおぞましく、差別的なものはありませんね。とにかく理性を失ってる描写が多い作品でしたが、すぐにネットに書き込める現在こそ、一旦立ち止まる理性が失われてるとも思いました。