エンパイア・オブ・ライト

劇場公開日:

解説

「アメリカン・ビューティー」「1917 命をかけた伝令」の名匠サム・メンデスが、「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマンを主演に迎えて描いたヒューマンドラマ。

厳しい不況と社会不安に揺れる1980年代初頭のイギリス。海辺の町マーゲイトで地元の人々に愛されている映画館・エンパイア劇場で働くヒラリーは、つらい過去のせいで心に闇を抱えていた。そんな彼女の前に、夢を諦めて映画館で働くことを決めた青年スティーヴンが現れる。過酷な現実に道を阻まれてきた彼らは、職場の仲間たちの優しさに守られながら、少しずつ心を通わせていく。前向きに生きるスティーヴンとの交流を通して、生きる希望を見いだしていくヒラリーだったが……。

「ブルー・ストーリー」のマイケル・ウォードがスティーヴンを演じ、「英国王のスピーチ」のコリン・ファース、「裏切りのサーカス」のトビー・ジョーンズが共演。撮影は「1917 命をかけた伝令」でもサム・メンデスとタッグを組んだロジャー・ディーキンス。

2022年製作/115分/PG12/イギリス・アメリカ合作
原題または英題:Empire of Light
配給:ディズニー
劇場公開日:2023年2月23日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第80回 ゴールデングローブ賞(2023年)

ノミネート

最優秀主演女優賞(ドラマ) オリビア・コールマン
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(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画レビュー

4.5違う者どうしが、同じ時間と場を共有する豊かさ

2023年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

悲しい

楽しい

これは不況期の田舎町でさびれつつある映画館を舞台にした映画で、受付係の中年白人女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と新入りの黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が心を寄せていく過程が主要な筋の一つになっている。人種が異なり歳も離れた男女が、同じ職場で共に過ごすうちに互いを理解しそれぞれが相手の大切な存在になっていくという、多様性尊重の現代にふさわしい内容だが、思えば映画館で映画を観る行為もまた、他人同士が劇場という空間を共有し、同じ時間を過ごすという意味で通じている。 サム・メンデス監督による本作や、スティーヴン・スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」など、映画館や映画作りについての映画が増えているのは、配信の興隆に押され、さらにコロナ禍で拍車がかかった劇場興行の衰退傾向に巨匠たちが危機感を強めていることと無関係ではないはず。配信視聴では代替できない、他人同士の客たちが同じ映画を一緒に観て過ごすという体験の豊かさを守り、未来へ継承していきたいとの願いを込めているのだろう。 オスカー女優、オリヴィア・コールマンの熱演は文句なしに素晴らしいが、やはりオスカー俳優のコリン・ファースが脇に徹してゲスな支配人を嫌ったらしく演じているのもなかなかに贅沢だ。

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高森 郁哉

3.5今こそ映画に包み込まれたい人へ

2023年2月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

1980年代のイギリス南東部の街、マーケイドには、海風と一緒に時代を過ごしてきたようなアールデコ風の映画館、エンパイア劇場があって、そこでは『炎のランナー』('81)のプレミアが開催されている。アカデミー作品賞とヴァンゲリスのシンセサイザーをフィーチャーした音楽に同作曲賞が贈られた、当時の英国ブームを牽引した話題作だ。そんな時代をリアルに知っている映画ファンは、監督のサム・メンデスが自身の映画体験を基に綴ったという本作の世界観に、思わず惹き込まれるに違いない。 物語の主人公はエンパイア劇場で働くベテランの受付係、ヒラリーと、新米の従業員、スティーヴンだ。どちらも心に傷を持つ2人が、あっという間に心を通わせ、関係を深めていく過程と、さらに、サッチャー政権下の人種差別という社会問題が描かれる。常に精神が不安定なヒラリーのキャラクターはメンデスの実母がモデルだそうだ。 そんな風に、扉を挟んだ映画館の内と外では生々しい人間の営みが繰り広げられている。そして、人々を見守り、抱きしめ、やがて、挫けた心に希望の光をそっと灯すのが、映画と映画館だ、というのがメンデスのメッセージだ。これは創作活動が禁じられたパンデミックの最中だからこそ生まれた映画へのアンセム。ところどころ説明不足が目立つものの、今こそ映画に思いっきり包み込まれたいという観客の願いに間違いなく応えてくれるはずだ。

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清藤秀人

4.0映画や思いが人の心をやさしく照らす。メンデス流の映画館賛歌であり、人間賛歌。

2023年2月26日
PCから投稿

先日、英国マーゲイトにバンクシーの新たなアートが出現して話題となったが、本作の舞台”エンパイア劇場”が佇むのはそこから歩いてすぐのところだ。冒頭、ピアノの調べに乗せて場内の灯りがポツリと点灯する。この優しく柔らかなノスタルジーに早くも胸を掴まれ、涙を堪えきれなくなる自分がいる。なるほど、これはメンデス流の映画館賛歌であり、80年代への追想なのだろう。『炎のランナー』プレミアに向けて活気づく中、ここで働くヒラリーは傷だらけの心を抱えて崩れ落ちそうになり、不意に出会った若者が彼女を明るい方へ導くかと思えば、一方で不況期のヘイトが彼に襲い掛かる。母子ほど歳の離れた二人の支え合う姿がなんと味わい深いことか。テニスンの中でも特に人気の高い大晦日の定番詩"Ring Out, Wild Bells"やオーデンの"Death's Echo"、ラーキンの"The Trees"が物語に高揚と彩りを添えている。

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牛津厚信

4.0いつかそこに辿り着けることを信じて

2024年9月18日
iPhoneアプリから投稿

泣ける

幸せ

どこかシニカルで、綺麗ごとだけでなく出来れば見たくない暗部も描きつつ、最後はホロッと感動させるそんな映画でした。 名優オリビア・コールマンのジェットコースター演技、名匠ロジャー・ディーキンスの息を呑む映像。特に後者は映画タイトルそのもので、作品を掛け算で格調高きレベルまで持っていってると感じました。 決して良いことばかりではない、主要人物たちはどこかに問題やコンプレックスを抱えている、そこに社会情勢もある、生きてる以上いつだってどこにだって誰にだって不満や不安はある。後半近くまで少しツラい描写が続くものの、ラストの映画館のシーンでちょっとだけ、でも確かに救われる。きっと誰もが皆、こんなシーンに象徴される救いや癒しや楽しみを追い求めながら生きているのかななんて、センチメンタルな感傷に浸っちゃいました。 王道からは少し外れるかも知れないけど、素敵なヒューマンドラマでした。 最後に、トビー・ジョーンズが味わい深かったです。息子とのエピソードはこの作品の隠れたハイライトではないでしょうか。

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吠えない狼