「めまいのする高さがリアルに表現できているのがすごい!」FALL フォール あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
めまいのする高さがリアルに表現できているのがすごい!
地上600メートルの高度に取り残されるサバイバル映画。
映像そのものは美しいのだが、なにをどうやったらこんなにリアルになるのかというほど怖い。手の平と足の裏に脂汗をかきながら観た。
画面のひとつひとつに緊張感がみなぎっている。
「人生はあまりにも短い。だから一瞬一瞬を大切に、人生をかみしめて生きるべきだ」というメッセージそのままに、画面から目が離せない。
主人公のベッキーはロッククライミングを楽しんでいるときに、夫のダンを落下事故で失う。これは夫がfallするというだけでなく、ベッキーの人生がまたfallする瞬間であり、タイトルとの紐づけがうまい。
ベッキーは失意の中で酒におぼれ、友人も遠ざけて、生ける屍のように暮らす。どん底まで落ちた彼女がトラウマから立ち直る物語であることがわかる。父親が心配してベッキーに連絡を取ろうとするが電話に出ない。だから父親は直接会いに来るのだが、それでもベッキーは受け入れようとしない。
1年が過ぎたころ、親友のハンターが現れる。
ハンターは冒険の様子を動画配信することで収入を得て、旅を続けているという(フォロワー6万人という設定になっている)。地上600メートルのB67テレビ塔に上るために、一緒にきてほしいというのだ。
最初は渋るベッキーだったが、ダンが言っていた「生きることを恐れるな」という言葉を思い出して、ハンターとともにテレビ塔に上ることにする。
B67テレビ塔は取り壊しが決まっている過去の遺物であるという説明があり、その頂上からダンの遺灰を撒くという目的を設定するところで、ベッキーが過去と決別するためには塔に上る必要があることが示唆される。
そして、ふたりは上りはじめるが…。
といった物語。
600メートルのテレビ塔からどうやって生還するか、というのがストーリーの軸だ。
それから、600メートルという高所でスマホの電波が届かず、他人とのつながりが断たれる。これは2022年頃、コロナの時期に断絶がキーワードになっていたから、その要素が取り入れられているのだろう。
さらにはハンターが危険行為を動画配信して収入を得ているというのも当時のトレンドで、高いところにのぼる配信者が落下事故で死亡したというニュースなどもあった。
このように時代性をうまく取り入れており、最終的には「人生を噛みしめて生きろ」という強いメッセージにつながる。
残念なのは、キャラクターが駒として使われており、人間的な深みがないところだ。いろいろとハードなシチュエーションがあるにもかかわらず、それについてはあまり掘り下げない。
また、1年間酒浸りの生活をしていたにもかかわらず、「明日テレビ塔に上ろう」と誘われてリハビリもせずに行ってしまうというのも無謀だ。
このように、突っ込みどころはいろいろあるのだが、とにかく映像がすさまじい。サバイバル映画をあまり観ないので説得力はないかもしれないが、高所恐怖症を刺激されて本当に怖かった。
このわかりやすさとリアリティが要因だと思うが、4億7,900万円の製作費で、27億円の興行収入をたたき出している。成功した低予算映画と言っていいだろう。ちなみに低予算の名作を調べたら「ロッキー」(3億円)、「アメリカン・グラフィティ」(2億円)、といったものが出てきた。
億単位の製作費がかかっている時点で、「映画はアイデアさえよければなんとか作れるものだ」とは言いにくいのだが、本作を観ているとアイデアやセンスといったものは非常に重要だと、あらためて思った。