「そんな子もいたっていいと思います。 けれど…」ちひろさん nuspiritさんの映画レビュー(感想・評価)
そんな子もいたっていいと思います。 けれど…
原作を読んでいない者の感想です。
有村架純さんっていいなと、今さらながらに感じました。
漫画では納得しやすくとも、現実世界ではありそうにない行動をとる、ちひろさん。
わたしはそれらとっぴなシーンを見ても、なお先の展開を求めてしまいました。
彼女の笑顔のせいです。
共演者たちも、みなとても魅力的でした。
好きな役者が出演している、というファンの方々は、この作品を見てソンはないとおすすめできます。
小学生まこと役の嶋田鉄太さんの演技は秀逸でした。
わたしは今作で初めて見ましたが、彼には伊藤淳史さんや濱田岳さんのように活躍する未来が待っているのではないでしょうか。
ホームレス師匠を埋葬してしまうシーンでは、もう少しだけリアリティを持たせてくれれば、と思いましたが、それは作り手の意図的な部分でもあったと思います。
映像は優しく、役者さんたち全員がとても魅力的で、観てよかったと感じた作品です。
原作もいいのだと思います。
読んでみたい。
ところで、ちひろさんは、なぜ変わった行動をするのでしょうか?
リリー・フランキーさん演じる店長はバジルに言っていました。
〜面接のとき、普通の女の子だったけど、靴がすごく汚かった〜
師匠のとき以前にも、ちひろさんは地面を掘って死体を埋めたことがあるのだと思います。
他の方も、父親を殺したのではないかとレビューでおっしゃっていましたが、そうかもしれませんね。
朝ドラ「虎に翼」に登場した、尊属殺人を犯してよねさんたちに弁護してもらった女性を連想しました。
実の親だったかそうでないかはわかりませんし、腰の傷跡は誰が作ったのかも分かりません。
殺したのではなく、死人を埋めただけなのかも分かりません。
その死体が人間だったか、そうでなかったかも不明です。
ともかく、心に大きな傷を負っている彼女は、ずっと逃げる運命なのでしょう。
自分を好きでいてくれる人たちからも、靴を汚して死体を埋めてしまった過去からも。
逃げながらも、孤独な贖罪の毎日なのです。
であれば、自分の身体を売ったり、ホームレスの身体を洗ってあげたり、ストーカーっぽい女子高生に親切にしたり、刺されても笑い顔を作ったり、シングルマザーに言って聞かせたり、溺れる蟻を助けたりという行動が、腑に落ちます。
誰かを助けてあげることが出来なかったのかもしれません。
自分の命があるうちは、誰かを助けたいのかもしれません。
憎しみから殺した人間を埋めたことがあるなら、もう二度と埋めたりはしないと思います。
だから、ちひろさんは、やっていないでしょう。
街からいなくなってしまったのは。
いつ死んでしまうか分からないから、先にみんなの前から消えてしまったのでしょうか。
後ろめたいのかもしれません。
みんなを悲しませたくないのかもしれません。
変なことをする、優しくて、人を救って、みんなに好かれる子。
孤独で心の奥をひらかない子。
突然いなくなってしまう子。
そんな子もいたっていいと思います。
けれど、そんな子を作ってしまう行為には怨みを感じませんか?
病室で、風吹ジュンさん演じる多恵さんにドングリをプレゼントしたあと、昔のエピソードを語るちひろさんの表情が、いつまでも忘れられません。