「自分の居場所が見つからない人たち」ちひろさん つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の居場所が見つからない人たち
今泉力哉監督の作品は数本目だ。彼の作品は言葉に出来ない感情が積み重なっていく感覚がある。自分のような素人には分からない演出力なのだろう。
本作でもまたその力は発揮されていたように思う。物語や内容とは少しズレたところにある不思議なものを感じた。
有村架純演じる主人公ちひろはときに優しくときに厳しく、相手を選ばないコミュ力お化けのような人で、自身も芯のある強い人だ。
そんなちひろさんがすることは人と人を繋ぐこと。
ちひろさんは実に人気者ではあるものの彼女自身が中心になることはない。ドーナツの真ん中の空洞のような人なのだ。
マコトが鍵を失くし何か食べさせてと助けを求めたのはオカジであった。高校生のオカジよりも社会人であるちひろのほうがマコトが求めるものを提供しやすそうにもかかわらずだ。
観ているだけではちひろとマコトのほうが繋がりが強そうに思えても、見えないところでオカジとマコトのほうが強く結びついたということなのだ。
ちひろ本人は同じ星の人を捜していると言った。誰とでもコミュニケーションをとれるちひろは逆にいえば誰とも親密になれないのようだ。星の話に置き換えるならば、相手が見つからないということになるだろうか。
エネルギッシュで魅力的なキャラクターであったちひろの中身は、くっつきそうでくっつかないバラバラのピース。彼女の繋がる相手を捜してくれる「ちひろさん」が彼女自身に必要なのは悲劇だ。
作中で輪を構成していくハートフルな物語の中で、ちひろだけが一人取り残されてしまった。
原作があり、まだ完結していないので仕方ないのかもしれないが、ちひろだけが幸せを掴めなかったように見えるラストは少々残念だった。