「あなたにも必ずいる。ちひろさんや同じ星の人」ちひろさん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたにも必ずいる。ちひろさんや同じ星の人
役者はある瞬間から映画の神様に微笑まれたかのように快進撃続く事がある。
例えば、安藤サクラ。『0.5ミリ』『百円の恋』『万引き家族』…。
新たに微笑まれたのは、有村架純。『花束みたいな恋をした』『るろうに剣心 最終章』『前科者』…。
そんな彼女にまた一つ良作が。しかも監督は恋愛映画の名手、今泉力哉。
今泉力哉×有村架純のケミストリーで、何も起きない訳がない。
いや実際、何も起きない。
…と言っても、凡作という意味ではない。作風について。
ドラマチックな展開や興奮感動必至の作品ではない。
ゆったりふわっと、時が流れていく。
こういうスローテンポな作品が苦手な方にはただ退屈なだけに過ぎないが、私はこういう作品が好き。心地よくハートフルに、2時間浸らせて貰った。
舞台となる海辺の町がのどか。
そこにあるお弁当屋が美味しそう。
作品をさらに魅力的にしているのが、弁当屋の看板娘。
ちひろさん。
朗らかな性格。
屈託のない笑顔。
誰に対しても分け隔てなく接する。
常連客は皆、虜。人気者。
この弁当屋の経営者の娘ではない。バイト。ある日何処かからふらりとやってきた。
前は一体何してた…?
若い女性に聞くのも気が引けるが、ちひろさんの前職は皆知っている。
元風俗嬢。
普通はそんな前職は隠したがる。絶対秘密。
だけどちひろさんは隠す事無く。あっけらかんとし、自分の全てを否定しない。
男客の中には興味や下心ありの連中もいるだろうが、ちひろさんはさすが元風俗嬢と言うのもアレだが、あしらい方も上手い。冗談を言い合ったり、飲みの誘いも上手くやり過ごしたり、絶妙なやり取り。
だから誰もがちひろさんを好きになる。
優しくて温和なだけの性格じゃない。
ホームレスの老人が悪ガキどもにコケにされ、ドスを効かせて撃退。そのホームレスの老人にお弁当を上げ、以来時々会ってお弁当を一緒に食べたり、お風呂で身体も洗う。
生意気な小学生男子。暴言を吐き、怪我をさせる。他人の子を叱ったら問題にもなる今の世の中だが、ちひろさんはしっかり叱る。後日、男の子の方から謝罪。許し、褒める。今こういう人、居なくなったよね…。
ちひろさんをこっそり写メに撮る女子高生。ちひろさんもそれに気付いていて、「今日は撮らないの?」と余裕の対応。
自分に否があった場合、素直に謝る。でも、一本筋は通す。
ただキュートで魅力的な女性ってだけじゃなく、カッコ良さ、面倒見の良さ、おおらかさに惚れ惚れ。
太陽のようなちひろさん。
自然と周りは皆、ちひろさんに引き寄せられる。
家でも学校でも息苦しさを感じている女子高生オカジ。
夜の仕事の母親をいつも家で一人待つ小学生男子マコト。
ちひろさんの元仕事仲間のバジ姉。
縁日で偶然再会した前のお店の店長。
他にも、威圧感な父親に確執抱く青年、オカジの不登校の同級生女子、マコトの母親も。
皆それぞれ悩みを抱えている。孤独を抱えている。目的や相手への愛情を見出だせないでいる。
ちひろさんは自分自身を否定しないが、他者の事も否定しない。
手を差し伸べる。触れ合う。受け入れる。理解を示す。時には諭す。
ちひろさんと出会って、皆各々の人生に変化が…。
織り成される人間模様も素敵。
聖母のような…と言ったらさすがに大言壮語。
オープンな性格で、ちょっと掴み所の無い不思議ちゃんな所も含めて、人間味あってのちひろさん。
だから、悩みなど無いように見えて、人知れず“陰”も…。
詳しくは描かれないが、台詞や時折挿入されるシーンで浮かび上がるちひろさんの生い立ちや過去。
どうやら家族とは疎遠。弟からの電話にようやく出、母親の死を知らされるも、葬式の出席は拒否。
子供時代はマコトのようにいつも一人でいて…。
風俗嬢の前は普通のOL。しかもその時は物静かで内向的で自分に自身の無いようなまるで別人…。
そんなちひろさんに影響与えたのは…。
子供時代会った一人の女性。今思うと、夜の仕事の人。
あっけらかんとした性格で、オープンで、ちょっとガサツだけど優しい。
名は、“チヒロ”。
もう一人。ちひろさんが時々見舞いに行く盲目の中年女性、多恵。
知り合いのように接するが、ちひろさんは身分を偽って…。
全くの赤の他人ではない。多恵は弁当屋の奥さん。
ちひろさんがこの町に来た時、この弁当屋にふらりと立ち寄って、その時対応したのが多恵。その時掛けてくれた言葉が…。
風俗嬢時代、ある客が印象的な話を。
我々人も宇宙人で、それぞれ別の星から来た。だから同じ人なんて居ないし、分かり合えない。でも何処かには、“同じ星の人”がいる。
無論SFの意味じゃない。自分の人生に於いて巡り合えた運命的な出会い。
その人と出会って、私は影響を受けた。全てが変わった。
ちひろさんが出会ったのもそう。
単に言えば一期一会かもしれない。でも、そうじゃない。“同じ星の人”。
ちひろさんとの出会い、周りの皆の出会い…。
本作には他にも心に残る素敵な台詞が。
中でも個人的に特に気に入ったのは…。
珍しく沈むちひろさん。店長からの気晴らしの誘いも断る。その時の店長の台詞。
じたばたするから沈む。いつか自然と浮いてくる。
本当にそうだよなぁ…。時にがむしゃらに頑張る事が自分を苦しめる事もある。
そういう時は、リラックスして。
人は沈んでも、また浮かび上がる事が出来る。
他にもあなたのお気に入りの台詞を見つけて。
有村架純のナチュラルな好演。
本人はなかなか掴み所が難しい役柄に苦労したらしいが、そうとは感じさせない雰囲気、佇まい。
キュートな魅力の中にも抱える複雑な内面。
またまた彼女に代表作と名演が一つ。冒頭にも述べたが、今映画の神様に微笑まれたような無双状態!
周りも好演。
何と言っても、オカジ役の豊嶋花とマコト役の嶋田鉄太は拾い物!
リリー・フランキーは風変わりな役を離れれば人間味と人情味たっぷり。
風吹ジュンの温かさ。
皆が集ったラストシーン。この中に入りたいと心底思った。
今泉力哉監督は恋愛映画の名手として今名を馳せるが、ハートフルなドラマ作りも巧い。『アイネクライネナハトムジーク』や『mellow』もあのハートフルな雰囲気が好きだった。
本作はその延長線上、いやさらに昇華している。
美しい映像や音楽も身体中に心地よく染み入る。
ただのまったりハートフルな作品だけじゃない。光の中には陰もあり。
孤独、苦悩、暗い過去…。
突然死したホームレスの老人の遺体を土に埋めたり(その後の名言、“死体を埋めた後はラーメンが食べたくなる”)、多恵の頼みとは言え彼女を無断で病院から連れ出したり、ちひろさん、アウトな行為も…。
基は人気コミック。原作ファンからは厳しい意見多く、画像を見たが原作のちひろさんは有村架純とはだいぶ違う…。
人それぞれ意見や好みはあるが、私は好きだ、この作品が!
もう一つ、忘れられない素敵な台詞。
「あなたなら何処にいたって孤独を手放さずにいられる」
普通に考えると、不思議な台詞。孤独って寂しく、辛かったり悲しいもの。
どうしても孤独ってネガティブに捉えてしまうが、こうも考えられる。
孤独を経験したからこそ、人との繋がりや温もりを感じる事が出来る。
孤独を経験した人は出会った人を悲しませたりしない。人に優しく出来る。
喜びも幸せも人と人の繋がりも、悲しみも悩みも孤独も。
全て受け入れて、あなたという人。
そんなあなたにも必ずいる。同じ星の人。
あんなに美味しそうにお弁当を食べる人もなかなかいない。
ちひろさんに会えて良かった。
失礼します
共感ポイントありがとうございました
漫画と映画は勿論違いますし、ましてやカリカチュアされた描画と、実写は当然です だから、どの映画化も別作品だと思って認識すべきだと思います 原作は巻数も多いですから、その中から何を再構築、又は補足、若しくは切り抜きするかは制作陣の裁量です
録り溜めていたテレビ番組で『ももさんと7人のパパゲーノ』というドラマを観ました 主人公の入院先で読んでいた漫画は正に本原作です でも、主人公はそれを読んだとしても希死念慮は拭えませんでした それはちひろさんの様には生きられない、達観した人生観と自分のそれとのギャップ過多だと想像しました 翻って映画作品は、ちひろさんの過去の断片は描かれるが、主人公の心情は深くは表現していない 彼女自体が"バタフライエフェクト"の役割を担う事で、生きづらさを持った人達同士の接着剤をファンタジーとして描いてみせたのでしょうね 原作の一つの切り口としての回答だと感じました もしかしたら、パパゲーノの主人公も、映画実写を観たら・・・いや、実際自らその回答を探しに、旅にでるストーリーだから、本作品と同じテーマかも知れません
長文駄文、失礼しました スルーして下さいw
私の想像ですが、Netflix側の関係者が尺やその他の理由でカットしてしまった部分を、監督の意地で、劇場版では絶対に上映することにしたのでは⁉️
と思ってます。
コメントありがとうございます。
本当にいい映画でしたね。
Netflix、とても観る機会が増えて来ました。
ありがたいです。
近大さんの、
有村架純が映画の神様に微笑まれている・・・
とても同感です。
本当にすごい女優ですね。
私は「前科者」の時から、もうオバサンと呼ばれても動じない強さ、
年齢も美醜も乗り越えて行く人だと思いました。
観る度に大好きになります。
今回も凄味がありましたね。