「引くに引けない、いい年した大人達の喧嘩話」イニシェリン島の精霊 すけさんの映画レビュー(感想・評価)
引くに引けない、いい年した大人達の喧嘩話
舞台は1923年、内戦の絶えないアイルランドの孤島、イニシェリン島で起こるパードリックとコルムという、いい年した大人二人の喧嘩話。
ん〜〜〜正直な話、自分はあまり面白くなかったです。
パードリックがなぜあそこまで頑なに関わり続けようとするのかが謎なんですよね。
もしパブで他に話す人もいなくて妹以外に味方がいない、というのなら固執してしまうのも分かるのですが、別にコルム以外とも全然話してるし「なんでこうなったんだろう」と相談したりしている。
コルムは「ほっといてくれ」と言っているだけなんだから、少し時間を置けばいいだけなのにそれもせずすぐにつっかかりどんどん気持ちを離れさせていく。
最初の方はまだ「パードリック空気読めないし本当に鈍感だな…笑」となるんですけど、実際に指を切り落としたものを見せられてからも「返しにいかなきゃ」となってしまうのはもう分からないです。
そこ以降のパードリックは空気が読めないとかとかそういう次元ではなく、他人のことを考えないエゴの塊のような気持ち悪い人間になっていきます。
予告を見る限りコルムが唐突に絶縁を叩きつけるヤバい奴かのように見えますが、実際はパードリックのほうがヤバい奴でした。
言っちゃなんですがおじさんのメンヘラ行動を見せられてるだけですからね。
しかしそこで観客のザラつく心を見透かすかのように差し込まれるのどかで"なにもない"があるイニシェリン島の牧歌的な風景。
この島の映像が心の浄化剤になっていたのが良かったです。
監督の前作『スリー・ビルボード』では登場人物の心情を丁寧に描き、お互いの環境なりなんなりがあってすれ違いが起きていく作品でしたが、今作はどうにも主人公に感情移入できない。
コルムはやりかたが不器用だが言いたいことは分かる。妹のシボーンは島唯一の常識人ですし、発達障害っぽい感じのドミニクでさえ欲に対して忠実すぎるだけで悪いやつではありませんでした。
でも主人公のパードリックは人の忠告を聞かず、実際に指を切り落としたコルムを前にしても自分が身を引くという選択肢を持たずに関わり続けようと執着を見せるのが共感できないんですよね。
「すべてがうまく行っていた、昨日までは。」というキャッチコピーはあくまでパードリック目線、コルムとしてはそれまでが退屈で、絶縁状を叩きつけてからのほうがうまく行っていたように見えます。
なんだかんだ途中まではちょいちょい笑えるシーンがあって、これ笑っちゃうのは自分が不謹慎なのかちゃんと狙って作られてるのか分からなかったのですが、どうやら今作のジャンルはブラック・コメディとのことで、愚かな人間の行動を冷ややかな目で見て笑うのが正しい鑑賞方法なのかもしれません。
いやしかしパードリックを演じたコリン・ファレルの困り眉のハの字具合がすごかった。その角度で主人公の感情の揺れ幅が分かるくらいに、劇中の9割は眉がハの字になっています。
そして今作を観終わった自分の眉も同じようにハの字になっていたと思います。
監督が今作で何を伝えたいのかが分からなさすぎて、です。